松山オジョス武先生 (理化学研究所)

受賞テーマ:「幹細胞由来三次元網膜移植後のホスト網膜とのシナプス接続の解析、および視機能改善のための光刺激の探求」(ライオンズ賞)

神経細胞はひとたび損傷すると再生することができないというのが神経科学の常識でしたが、100年以上も受け入れられてきたこの常識が覆りました。視細胞を失った網膜に幹細胞から調製した視細胞を移植することで光応答を回復することが示され、不可能と思われていた網膜色素変性症に治療の可能性が芽生えています。
視機能の再生が可能であることが示されたものの、同時に多くの課題も見えてきました。視機能を再生するには移植した視細胞(光センサー)とその情報を受け取り光情報を処理する宿主の細胞と「シナプス」と呼ばれる神経接続の形成が必須です。私たちは形成過程あるいは未熟なシナプスも評価できる手法を開発しています。このシナプス評価法を使って移植網膜においてシナプスを増強する因子を探索したいと思っています。特に光によってシナプス形成を影響できるのではないかと考えています。
網膜は光受容に特化した神経細胞ですので、光によって非侵襲性にその活動性を変えることができます。またシナプス形成は神経活動に関連していることが知られているので、光によってシナプス形成を促進することができるかもしれません。また網膜は単純に光を受容するだけではなく、高度な情報処理も行なっています。したがって、移植細胞の光応答もこの情報処理網に取り込まなくては高度な視機能の回復は期待できません。この網膜の光情報網も、光依存的な活動で再編成を促すことができるかもしれません。
網膜の発生や機構にはまだまだ分からないことがたくさんあり、複雑であると同時にさまざまな状況に対応できるその柔軟性に脅かされます。この機構を理解しその柔軟性を少し後押しすることができれば、より複雑な視機能再生も可能となるでしょう。少しでも網膜の再生医療が効果的になるよう研究に励みたいと思います。

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