小坂田文隆 先生(名古屋大学 大学院創薬科学研究科)

網膜色素変性における神経回路の再生

私のこれまでの研究と現在の取り組みについて簡単に紹介したいと思います。
私はこれまで理化学研究所の髙橋政代先生の研究室で、視細胞の再生に関する研究に携わってきました。再生治療には薬物治療と移植治療が考えられます。私は薬学研究者なので、手術よりは薬物で治したいと思いました。網膜の中に存在するミューラーグリアが新しく神経細胞を生み出すことが分かっていましたので、ミューラーグリアからたくさんの視細胞をつくることができれば、新しい治療になるのではないかと考えました。その後、Wnt(ウイント)シグナルを活性化する薬物により視細胞を増やせることを見出しました。しかし、それだけでは視機能を回復することはできませんでした。
また、移植についても研究を進めました。最初の関門は、移植のドナー細胞を何からつくるか。大人の海馬の幹細胞や虹彩に存在する色素細胞など、さまざまな細胞から視細胞をつくろうとしました。視細胞に近い細胞はできましたが、自信を持って視細胞と言える細胞をつくることはなかなかできませんでした。しかし、2006年に初めてサルのES細胞から、これは視細胞だと自信が持てる細胞をつくることができました。iPS細胞でも、ES細胞でのノウハウを活かして、すぐに網膜色素上皮細胞や視細胞の誘導に成功しました。しかし、移植実験などを繰り返しましたが、視細胞はなかなか生着しませんでした。
薬物治療と移植治療のいずれにおいても、新しい視細胞が網膜の中で機能しないという共通の課題に直面しました。私はこのまま幹細胞だけを研究していても、いつまで経っても網膜は再生できないと感じました。そこで、神経回路の研究をしなければいけないと考え、アメリカに留学する決心をしました。
アメリカではEd Callaway先生の研究室で、どのように神経回路が働いて、我々はものを見ているのかを研究してきました。その中で特定の細胞がどのような神経回路を形成し機能しているのかを解析する新しい方法をつくることができました。
その後、日本に帰国し、名古屋大学の創薬科学研究科という新設の大学院にて全くゼロから新しく研究室を立ち上げることになりました。今回JRPSにサポートしていただくのは、日本で行なってきた幹細胞の研究に、アメリカでの神経回路の研究を融合させた研究課題です。
今後も研究を積み重ね、視覚を再生する新しい治療法を開発していきたいと考えています。

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