網膜色素変性の遺伝子診断におけるメリットとデメリット 堀田喜裕先生

「網膜色素変性の遺伝子診断におけるメリットとデメリット」

遺伝情報を医学に応用しようと、膨大な研究が進行しています。網膜色素変性を代表とする網脈絡膜変性疾患についても例外ではありません。皆さんのなかにも主治医から遺伝子検査について話を聞いたり、実際に遺伝子検査を受けたりしている方がいらっしゃるかもしれません。2000年にヒトのゲノムの全塩基配列の決定が報道されてからまだ20年弱ですが、我々の遺伝子を網羅的に検査できる技術の進歩には驚くばかりです。ヒトの遺伝子は約25,000個と言われています。網脈絡膜変性疾患の場合、疾患の原因遺伝子は一つのことが多いので、疾患によって検出率は異なりますが、遺伝子検査によって3~4割の患者さんお原因を明らかにすることができます。遺伝子検査の結果は究極の個人情報ですから、検査をするにあたっては担当医から十分な説明を受けて、書面での同意を得ることが必須となっています。しかし、いくら丁寧に説明されても、遺伝というわかりにくい分野なので、十分に理解するのは難しいのではないでしょうか。本講演では、遺伝子検査のメリットとデメリットについてわかりやすく解説してみたいと思います。
メリットそしては、1)治療の可能性と2)遺伝する可能性についてより具体的に知ることができることが挙げられます。
1)「治療」と聞いて安易にとびつかないでください。現状では、レーバー先天盲、コロイデレミアなど、あまり聞いたことのないごく一部の網脈絡膜変性疾患の方しか対象になりません。また治療効果は限定的ですし、ウイルスを使った治療なので10年以上先の長期的な安全性は不明です。
2)患者さんとお話しすると、治療に次いで近親者に遺伝しないかをとても心配しておられます。遺伝子検査をすることによって、子孫に遺伝しないことを明確にできることがあり、そうした結果が得られる場合は大きなメリットになります。
デメリットそしては、1)近親者への影響と2)「予期せぬ結果(これを専門的にはincidental findings/ secondary findingといいます)」が挙げられます。
1) 遺伝子検査によって、遺伝していないことが明らかになれば、すでに述べたように「メリット」になりますが、遺伝していることがはっきりして「でめりっと」になる場合もあります。また、最近の遺伝子検査では、両親の協力が得られると検出率があがることもあって、両親の遺伝子も検査することが多くなっています。両親にそれぞれ半分ずつの原因があるということが多いのですが、両親のどちらかから遺伝していることがはっきりして、親族に大きな影響を与える可能性があります。
2)「予期せぬ結果」というのは、最近ではすべての遺伝子をみる遺伝子検査(これを全エクソーム検査と言います)が増えています。網脈絡膜変性疾患の原因を知ろうと検査したのに、方法によっては将来全身疾患やがんに羅患する可能性が明らかになる可能性があり、こうした場合の対応について専門家の間でも議論が進行中です。
私は遺伝子診断に基づいた未来の医療に大きな期待をしていますが、現状では述べたような克服すべき問題点も少なからずあります。したがって、決して軽い気持ちではなく、主治医とよく相談した上で、遺伝子検査を選択することをおすすめします。

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