◇学術研究助成受賞者は今(第12回)

第12回 西口 康二(2015年・第19回受賞)
東北大学医学部眼科 准教授

遺伝子治療は、遺伝性疾患の病気の原因である遺伝子の異常そのものを治すことを目的とした、根治的なアプローチです。JRPSの研究助成に応募したのは、ロンドンで網膜変性に対する先端的な遺伝子治療を勉強して、2014年に日本に戻ってきて少し経ったころでした。私は、もともと名古屋大学眼科に所属していたのですが、同大学では遺伝子治療に使うウィルスを使う実験環境を確保するのが難しい、という問題がありました。そこで、東北大学眼科の中澤徹教授と名古屋大学眼科の寺﨑教授にお願いして、帰国後はウィルスを使う研究環境が整っている東北大学に思い切って入局させていただきました。その新しい研究環境のなかで、初めて行う記念すべき網膜変性遺伝子治療研究テーマを「遺伝子治療による錐体系視覚再建と可塑性の解析」と定めて、JRPS研究助成に応募させていただきました。受賞が決まった時は資金的な研究基盤が特に弱く、助成いただけることになって、とってもありがたく感じたのをよく覚えています。同時に、自分の遺伝子治療にかける意気込みを審査員の先生方に評価していただいたのが大きな励みになりました。今振り返ると、最も難しいとされる研究の立ち上げが比較的スムーズに進んだ最も重要な要因の一つにこの助成があったのだと思います。
現在、研究助成を受賞して約4年が経ちました。今春、無事に助成研究の成果を論文として発表をすることができ、今は少しほっとしているところです。しかも、助成研究の実験結果は、当初の予測とは大きく異なり、予想外に「良好」でした。具体的には、「生まれつき視覚障害のある人に、大人になって遺伝子治療で眼だけを治療して本当に見えるようになるか」という「学術的な問い」に対して、マウスを用いた実験で出た答えは、「見える可能性が十分にある」という結果でした。生まれつき白内障で見えない赤ちゃんは、生後半年以内くらいに手術で白内障を治してあげないと、大きな視覚障害が残ることが知られています。実験結果は、それまでの常識とは大きく異なるものであったため、とても驚きました。しかし、うれしいことに、網膜色素変性の遺伝子治療開発にはとっては、予想外にポジティブな結果でした。本当にいろんな意味で心に残る助成研究になりました。
さて、この助成研究を行っているうちに世の中では「ゲノム編集」という新しい技術が大きく発展し、今では次世代の遺伝子治療を担う技術として世界中の注目を集めています。というのも、従来の遺伝子治療は比較的小さい遺伝子に病因変異がありかつ劣性遺伝形式の場合にのみ有効であり、しかも大きな遺伝子や優性遺伝の治療には不向きであるという欠点がありました。特に、日本人の網膜色素変性の病因遺伝子の頻度の高いものは、ほとんど治療対象になりにくい大きなものばかりで、遺伝子治療開発は大きな問題に直面していました。それに対して、ゲノム編集を用いると、遺伝型式や遺伝子の大きさによらず、治療できる可能性があります。そのため、ゲノム編集は日本人網膜色素変性にとっては極めて重要な技術と言えます。そこで、ここ何年かは、私もゲノム編集遺伝子治療の開発にも力を入れていました。最初はいろいろ苦労しましたが、最近では、かなりいい治療結果が出始めています。今後は、この開発研究をさらに発展させ、JRPS会員の皆様に還元できるように頑張りたいと思っています。(20190129)

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