◇学術研究助成受賞者は今(第3回)

第3回 高橋 政代(第3回受賞)
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 高橋 政代

JRPSの研究助成は初めて獲得した賞的研究費でした。学会誌に受賞者が発表されましたので、いろんな方から「おめでとう!」と言われてとてもうれしかったのを覚えています。「幹細胞を使って網膜色素変性の治療を作る」という内容でいただいた研究費で、これが約束をしたので本当に治療を作らなくてはいけないという覚悟ができたきっかけでした。
アメリカ留学時に出会った神経幹細胞を用いて、すぐに網膜色素変性の治療を作れるかとも思いましたが、それほど簡単ではありませんでした。神経幹細胞は神経を作り出す元となる細胞で、網膜色素変性で減ってしまう視細胞(網膜の中で最初に光を受け取る細胞)を作り出して移植する治療です。その後、よりよい細胞を求めてES細胞、そしてiPS細胞と研究を進めていきました。
2006年にマウスiPS細胞が、2007年にはヒトiPS細胞が発表されました。我々は2000年代のはじめからES細胞から作った網膜色素上皮(RPE)を用いた治療研究を進めており、患者さん自身の細胞から作れ、身体中のあらゆる細胞を作れるiPS細胞によって最後の問題であった拒絶反応が解決しました。その後2013年に臨床応用を許可されて、2014年9月にiPS細胞を使った世界初の細胞移植手術が加齢黄斑変性の患者さんに施行されました。最初の臨床研究は治療の安全性を確認するのが目的でした。移植細胞は生き残るのか、拒絶反応はおこらないのか、腫瘍はできないか。これらは1年後の判定ですべてクリアし、iPS細胞から作ったRPE細胞は安全であることが示されました。視力は当初の予想どおり大幅な向上は認められませんでしたが、それまで眼球注射の治療を繰り返しても視力が徐々に低下していたのが、眼球注射なしで視力低下が落ち着きました。
人は誰でも様々な遺伝子変異を持っています。また、細胞は培養を続けると遺伝子の変異が起こる可能性が必ずあります。RPE細胞は遺伝子の変異があっても腫瘍にならないことが知られています。これらの特徴的な性質から、iPS細胞を用いた最初の臨床応用に適していると考えられますが、なにせ最初の治療ですので審査委員会からは遺伝子を詳細に調べることを求められました。2例目の細胞は1例目の細胞に比べて遺伝子の変異が多く認められました。それらの遺伝子変異は安全性をおびやかすものではないと考えられましたが、どのような変異まで臨床に使ってもよいのかまったく基準がありません。そこで、2例目の細胞移植手術は一旦中止とし、文科省や厚労省が作る基準を待つことになりました。
その間にも時を無駄にせず、山中先生の研究所が作成する他家移植用のiPS細胞を用いた他家RPE細胞移植をより多くの患者に施行するための準備をしています。
一方、網膜色素変性に対する細胞移植はマウスやサルのモデルでiPS細胞から作った視細胞層が立体で網膜の下に移植した場合に、移植細胞は十分に育ち、生き残ることが分かりました。今後はそれらが患者網膜とうまく接合して機能しているかを確かめていきます。毎日の1歩1歩は小さく思えますが、こうして20年近くの研究を振り返ると、その道のりに随分遠くまで来たものだなあと感慨深く思います。(20160126)

(次回は九州大学病院 ・池田 康博先生です)

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◇学術研究助成受賞者は今(第2回)

第2回 冨田 浩史(第11回受賞)
岩手大学工学部 応用化学・生命工学科教授 冨田 浩史

2007年度JRPS研究助成を、「チャネルロドプシンを用いた視覚再生研究」で受賞させていただきました。
この研究は、2004年に留学先から帰国し独立した研究室を立ち上げた直後に生まれたものです。当時、「人工網膜チップを用いた視覚再建研究」の課題で、日本での研究をスタートさせましたが、私は従来、視細胞保護の為の薬剤の検討や遺伝子治療について研究してきたため、機械的な手法を用いた視覚再生は初めてのことでした。デバイスを東北大工学部と検討し、脳波の測定を行なっていました。初めてのことばかりで、移植と機能評価に苦戦しました。また、デバイスの作製にも時間がかかります。なかなか結果が思うように出せない中、もっと自分の専門を生かせる方法で視覚を再生できないか、と思い悩んでおりました。
そんな中、2005年、偶然、そして幸運にチャネルロドプシン-2(ChR2)の存在を知り、当時の東北大学眼科教授の玉井先生と、「これは画期的な治療法になるに違いない」と、チャネルロドプシン-2を用いた遺伝子治療研究が始まりました。人工網膜研究で学んだ動物モデルを用いた脳波測定技術と専門分野である遺伝子工学技術の両法の技術がマッチした研究内容となり、開始してから1年足らずで結果を得ることができました。はじめて、ラットで視覚の回復が見られた瞬間の感動は今でも心に残っており、「研究」という職業に就いた喜びを感じた瞬間でもありました。
しかし、画期的と考えたこの遺伝子治療も、当初は、緑藻のタンパク質をヒトの体内(網膜)で作らせることから、「研究は面白いが治療法になるはずがない」というのが大勢の見解でした。2007年、JRPS研究助成をいただいたのをきっかけに、臨床応用へ向け本格的に安全性研究を行なうことにしました。そして、現在までに、ラットやマーモセットで、重篤な副作用が見られないことが確認されています。また、安全性研究を行なうとともに、新しい遺伝子の開発に取り組み、従来の「青色」のみの感受性から、ほぼすべての色に反応する遺伝子の開発に成功しています。しかし、「臨床へ」となると、一介の研究者ができることは限られており、無力さを痛感しています。
2015年でこの研究をはじめて、10年になり、その間、東日本大震災や、2012年の東北大学の任期満了に伴う就職活動、そして、ようやく決まった岩手大学も動物実験を行う環境が無いなど、様々なことがありました。特に、震災後の4年は慌ただしく過ぎ去ってしまいました。研究の成功を期待していただいた皆さまには、大変申し訳なく、この原稿を書くにあたり10年の重みを実感しています。幸い、今年8月、JRPS理事の先生のご尽力により、大手製薬企業との実用化に向けた交渉が始まりました。10年のうっぷんを晴らせるよう実用化に向けて邁進したいと思いますので、引き続き、JRPS会員の皆さま、関係の先生方にはご協力、ご指導のほど、よろしくお願いします。(20150929)

(次回は、理化学研究所・高橋政代先生の予定です)

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◇学術研究助成受賞者は今(第1回)

第1回 山本 修一(第12回受賞)
千葉大学病院長・眼科学教授 山本修一

2008年度の第12回JRPS研究助成を、「網膜色素変性症におけるウノプロストン点眼による網膜保護効果の臨床研究」で受賞しました。この研究の発端は、ある学会で昼食をご一緒した三宅養三先生(愛知医大理事長)のお話からでした。ウノプロストン点眼によって自覚症状が劇的に改善した患者さんを経験され、この患者さんはインテリジェンスが高くその話には信頼性があり、すべてとは言わないまでも網膜色素変性の中にはウノプロストンが効く症例があるはず、というものでした。

ちょうどその頃、千葉大では新しく開発された眼底微小視野計の臨床応用を積極的に進めているところでした。この視野計は網膜上の同じ点の感度を繰り返し測定できるもので、しかもわずかな変化を捉えることが可能で、ウノプロストンの効果を判定するにはうってつけの器械でした。この昼食から千葉大学眼科でのRP患者さんを対象としたパイロットスタディが始まり、研究助成に繋がりました。

それまでのJRPS研究助成の対象は基礎的研究がほとんどであり、実際の患者さんに対する薬物治療の試みはRP研究の新しい展開と言えるもので、この後の研究助成には臨床研究が続々登場してきます。

さて、千葉大でのパイロットスタディですが、RP患者さん30名を対象に行なわれました。6ヵ月の試験期間中に視力はわずかに下がったものの、眼底微小視野計で測定した網膜中心部の感度には統計学的に有意な上昇が見られ、17名では2 dB以上

の、11名では4 dB以上の改善が見られました。この結果は、改善するとしてもごく限られた人数であり、悪化しないのが大半であろうと予測していた私たちには驚きでした。しかし、少しでも早く結果を出そうと焦って無治療の対照群(プラセボ群)との比較試験にしなかったため、科学的証明としてはパワー不足となり、英語で論文を投稿してもなかなか採用に至りませんでした。臨床研究は研究デザインが重要という基本を改めて思い知らされました。

とはいえ、このパイロットスタディを土台に全国規模の臨床試験に進みました。109名を対象とした第2相試験では、やはり網膜感度の有意な上昇が見られましたが、これで薬事承認を得るには至らず、さらに大規模な199名を対象とする第3相試験が展開されました。全国の患者さんのご協力のお蔭をもちまして、1年間の試験はこの規模の試験にしては珍しくとても順調に終了しました。しかし蓋を開けてみると、臨床試験のメイン・ターゲットである主要評価項目の網膜感度に有意差が見られなかったのは、アールテックウエノのプレスリリースに書かれている通りです。

100名を対象の第2相試験で明らかに示された有効性が、200名を対象とした第3相試験では証明できなかった。何故このような事が起きるのでしょうか?実は千葉大でのパイロットスタディの結果から、ほとんど進行していない初期RPやすっかり進行した末期RPには効果が見られないことが分かっていました。そこで第2相試験では、対象を進行途中の患者さんに限定しました。しかし第3相では実際に臨床の現場で使用されることを考え、かなり進行した患者さんにも参加していただきました。このことが効果を見えなくしたのではないかと推測しています。網膜色素変性の治療薬として承認されれば、進行程度に関係なく広く処方されるのですからやむを得ないことであり、これが臨床試験の難しさと実感しています。しかし効く患者さんがいることも事実ですから、これで挫けることなく、網膜色素変性の治療薬としての承認を得られるよう頑張っていきたいと考えています。

ウノプロストン以外にも、外国では神経保護薬の臨床試験が多数行なわれています。残念ながら日本で臨床試験を行なう話は聞かれませんが、少しでも有望そうな薬剤については試験を誘致できるように皆さんとともに努力して参りましょう。

(次回は、岩手大学 冨田浩史先生の予定です)

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■研究者面談報告 第8回 

大阪大学不二門 尚先生に聞く ~阪大方式人工網膜と経角膜電気刺激治療~

大阪大学大学院 医学系研究科感覚機能形成学教室に、不二門 尚先生を訪ね、阪大方式人工網膜の実用化の見通しと、あわせて同じ教室で行なわれている経角膜電気刺激治療の研究についてお聞きしました。

—— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ ——
問:阪大方式人工網膜は正式には脈絡膜上経網膜電気刺激方式人工視覚システムという長い名前がついています。どのようなものか、簡単にご説明いただけますでしょうか。
答:メガネフレームに付けた小型CCDカメラの画像データを電気信号に変えます。これを眼球の強膜部分に埋め込んだ49極のプラチナ電極に送り、そこから生き残っている網膜神経節細胞に情報を伝えます。アメリカやドイツで開発されている人工網膜は電極を網膜に直接接触させるので安全性と安定性に課題が残ります。これらに比べ、われわれの方式は網膜を傷つけるおそれが少ないといえます。

 

問:臨床研究の成果が論文として発表されたとお聞きしました。どのような結果が得られたのでしょうか。
答:両眼とも手動弁以下の患者さんを対象として、2014年から臨床研究を行ないました。具体的には、デバイスのスイッチをオンにしたときとオフにしたときの見え方を比較しました。成績のよかった人はスクリーンの上に投影した四角形の指標を指で正しく触ることができ、はしと茶碗の区別、白線に沿っての歩行ができました。コントラストを調整すればランドルト環の試験で0.004相当の視力が出ました。

 

問:電極の数を49以上に増やして分解能を上げることは可能ですか。
答:電極数を増やしても生き残っている神経節細胞が少ないと分解能は上がりません。むしろ、網膜の中心窩周辺に複数デバイスを置いて、視野を広げることを考えています。

 

問:日本医療研究開発機構AMEDの支援で医師主導治験の計画があるとお聞きしました。
答:治験では臨床研究の改良型のデバイスを使う予定です。炎症の起きにくい構造に換え、またIC回路を改良しました。デバイスを構成しているシリコン、メタルなどを動物の体内に埋め込んだり、培養細胞の上に載せたりして、長期的に安全かどうかの試験をしました。材料としての安全性はほぼ証明されました。ただ完成形のデバイスの前臨床試験がまだ残っています。治験開始は2017年度末くらいになる見込みです。

 

問:被験者の条件と募集人数、また実施施設は決まっていますか。
答:大阪大と愛知医科大、杏林大で実施の予定です。両眼が手動弁以下のRPの患者さん6人に参加していただきます。視細胞は脱落しても神経節細胞は残っていることが条件になります。これはコンタクトレンズ型電極に1.5ミリアンペア以下の電流を流して、光を感じることで確認します。

 

問:医師主導治験終了後はどうなりますか。
答:薬事承認(製造販売承認)が得られても、保険収載まで時間がかかるので、すぐには安価で使えるようにはなりません。移行期は「先進医療」という制度を利用することが考えられます。ただ、この場合装置の費用負担は患者さんになってしまいます。

 

問:2012年に先生の教室の森本壮先生が経角膜電気刺激治療の研究でJRPS研究助成を受賞されました。これまでの研究成果を教えていただけますか。
答:経角膜電気刺激治療は、コンタクトレンズ型電極から角膜を経由して、網膜に微弱な電流を流す治療法です。森本先生を中心に臨床研究が行われ、2015年の日本眼科学会で結果を発表しました。ハンフリー視野計の中心4点の視野感度で評価したところ、刺激眼と無刺激眼の両眼の比較で有効性が示されました。毎月1回の電気刺激で視野感度の低下が異なるのです。ただ1年を過ぎると、その差は小さくなるようです。

 

問:刺激装置の認可に向けて、治験の予定はありますか。
答:経角膜電気刺激治療の治験では、被験者を、電流を流す人と流さない人に無作為に分けてデータを比較することになると思います。何のメリットもない対照群に振り分けられるかもしれない試験に患者さんが参加するかどうか分かりません。ランダム化比較試験を回避するため、電流値を変える試験や左右の眼を比較する試験を考えましたが、PMDAは認めないだろうと判断しました。そこで前述の先進医療制度での試験を検討しています。

質問者お礼の挨拶:自分に利益がない可能性があっても、治療法開発のために役に立ちたいと考えている患者も多くいると思います。JRPSの会員の間でも意見交換していきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

Wings ひとくちコラム
第5回 臨床研究・治験の検索
現在国内で実施中または準備中の臨床研究・治験の課題名や概要を知りたい場合は、下記の登録サイトにアクセスして検索することができます。
例えば「臨床試験の検索」ページ上で、検索条件の「対象疾患名」の欄に網膜色素変性と入力して検索すると、20件の研究課題が登録されているのが確認できます(2月20日現在)。興味のある方は試してみてください。
☆UMIN臨床試験登録システム(JRPS公式WEBサイトのリンク欄にでています)
http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm

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■研究者面談報告 第7回

■Wings研究者インタビュー 第7回
弘前大学中澤満先生に聞く ~カルシウム阻害薬を用いたRPの進行抑制~

弘前大学医学部眼科の中澤満先生は、ニルバジピンなどのカルシウム阻害薬や、カルパイン阻害ペプチドにより、視細胞の細胞死を遅らせる研究をされています。これまでの研究成果をお伺いしました。

—— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ ——

問:まずRPに対するニルバジピンの効果について簡単にご説明いただけますでしょうか。
答:神経細胞が死ぬときには細胞内のカルシウムイオン濃度が高まることが知られています。そこでカルシウムイオン濃度を下げれば、視細胞が死ぬのを抑えられるのではないかと考えました。ニルバジピンはアステラス製薬の前身、フジサワ薬品で開発されたカルシウム拮抗薬で、高血圧の治療薬として使われています。ほかのカルシウム拮抗薬に比べ、脳や網膜の細胞の中に入り込んでいく性質があります。異なった3種類のRPモデル動物に投与して効果を調べたところ、いずれのタイプでも、網膜変性の進行を遅らせる効果がありました。

問:RP患者に実際に投与する臨床研究を実施されたとお聞きしていますが。
答:約40人の患者さんを、薬を飲む人と飲まない人の2群に分け、ハンフリー視野計で中心10度の視野感度を平均で約5年間追跡し、病気の進行速度を調べました。その結果、平均で見ると、薬を飲んだ人のほうが進行速度が有意に遅いことが分かりました。視野感度の悪化の程度が約半分でした。ただ個別の例で見ると、ばらつきがあるという印象でした。飲んだ人でも進行する人もあり、飲まない人でも進まない人がいるということです。

問:それは投薬前の経過と比較してもそうなのですか?
答:飲まなければもっと悪くなったかもしれませんが、それは分かりません。

問:薬が相当効いているような印象を受けますが、被験者の数を増やして治験をやれば有効性がもっと確実に証明される可能性はありませんか?
答:製薬会社に検討してもらったところ、大規模な試験が必要であり、当面治験実施は困難との判断でした。採算性ということがあるかもしれません。

問:治験実施で薬の承認を得るという見込みは立っていないということですね。治験がもうすぐ始まるのではないかと期待していたのですが。
答:期待があるということであれば、もっと気を引き締めてがんばりたいと思います。

問:次にカルパイン阻害ペプチドのご研究についておたずねします。これまでの研究で分かったことを解説していただけますでしょうか。
答:細胞内のカルシウム濃度が高くなって細胞が死にますが、このときカルパインというタンパク質が活性化されてDNAにシグナルを送ります。カルパインの作用を阻害すると、結果的に細胞死を抑えることができると考えられます。
カルパインの活性化には別のタンパク質と結合することが必要ですが、この結合を阻害するペプチド分子のアミノ酸配列を明らかにしました。分子量が2000くらいです。そのくらい小さい分子だとラットの場合点眼で網膜に到達します。2種類の違ったRPモデルラットに対してこのカルパイン阻害ペプチドを点眼し、網膜変性を遅延させる効果があることを確認しました。大きな眼球のウサギでも点眼で網膜まで到達することが分かっています。
眼球の虚血再灌流という動物モデルでは、神経節細胞の細胞死がカルパイン阻害ペプチドの点眼で抑制できることが最近報告されました。細胞死にはカルパインが確かに働いていて、それを阻害することにより細胞死を遅延させられることが証明されました。

問:臨床応用への見通しはどうですか?
答:手術や注射などをせずに、点眼だけでヒトの網膜に作用させることができれば非常によいと思います。現在ヒト型のカルパイン阻害ペプチドをつくって、ヒトの細胞死を抑制するかどうか、培養細胞を使って確認しようとしています。患者さんの細胞からつくったiPS細胞由来の網膜細胞で試験ができればとてもよいです。

問:研究が進んで臨床応用が可能となるよう大いに期待したいです。最近、臨床研究・治験に入りそうだという話をよく聞くようになってきました。患者がどういう形で臨床研究、治験を後押しできるとお考えですか?
答:臨床研究、治験ということになれば、被験者として参加してもらうことがなによりありがたいことです。

 

Wings ひとくちコラム
第4回 ゲノム編集によるRPの治療ゲノム編集とは細胞の遺伝情報を書き換える新たな技術です。医学の分野でも急速に研究が進み、最近、米国ソーク研究所や神戸理化学研究所などの共同研究チームがRPモデル動物の網膜細胞の遺伝子変異を修復、視細胞の脱落を防止して、視覚を維持することに成功しました。患者として、臨床応用の日が早く来ることを期待したい。ただ、この技術を適用する前提として、治療を受ける患者の原因遺伝子が前もって特定され、遺伝子のどの部分に変異があるか正確に同定されていなければなりません。日本人のRP患者の遺伝子を検査しても、2~3割の人でしか原因遺伝子が特定されないのが現状です。未知の原因遺伝子の発見とともに、低コストで正確な遺伝子診断法の開発が望まれます。

 

次回★Wings研究者インタビュー 第8回
大坂大学  不二門 尚先生に聞く
~阪大方式人工網膜と経角膜電気刺激治療~

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第5回Wings ひとくちコラム 

臨床研究・治験の検索

現在国内で実施中または準備中の臨床研究・治験の課題名や概要を知りたい場合は、下記の登録サイトにアクセスして検索することができます。
例えば「臨床試験の検索」ページ上で、検索条件の「対象疾患名」の欄に網膜色素変性と入力して検索すると、20件の研究課題が登録されているのが確認できます(2月20日現在)。興味のある方は試してみてください。

☆UMIN臨床試験登録システム
http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm

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「AMEDシンポジウム2017」講演動画

2017年5月29日、30日に開催された「AMEDシンポジウム2017」にて行われた講演の様子が公開されています。以下のリンクをクリックすると、動画ページへ移動します。
なお、演目、演者等の詳細については、「開催概要」をご参照ください。

※動画配信は外部サービスを使用しています。

AMEDシンポジウム2017―5月29日前半  (1時間52分39秒)

AMEDシンポジウム2017―5月29日後半  (2時間7分46秒)

AMEDシンポジウム2017―5月30日午前の部  (1時間56分27秒)

AMEDシンポジウム2017―5月30日午後の部前半  (1時間58分10秒)

AMEDシンポジウム2017―5月30日午後の部後半  (1時間29分12秒)

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第4回Wings ひとくちコラム

ゲノム編集によるRPの治療

ゲノム編集とは細胞の遺伝情報を書き換える新たな技術です。医学の分野でも急速に研究が進み、最近、米国ソーク研究所や神戸理化学研究所などの共同研究チームがRPモデル動物の網膜細胞の遺伝子変異を修復、視細胞の脱落を防止して、視覚を維持することに成功しました。患者として、臨床応用の日が早く来ることを期待したい。
ただ、この技術を適用する前提として、治療を受ける患者の原因遺伝子が前もって特定され、遺伝子のどの部分に変異があるか正確に同定されていなければなりません。日本人のRP患者の遺伝子を検査しても、2~3割の人でしか原因遺伝子が特定されないのが現状です。未知の原因遺伝子の発見とともに、低コストで正確な遺伝子診断法の開発が望まれます。

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■研究者面談報告 第6回

■Wings研究者インタビュー 第6回

岩手大学 冨田浩史先生に聞く~遺伝子治療による視覚再生-臨床に向けた取り組み~
岩手大学理工学部化学・生命理工学科視覚神経科学研究室 冨田浩史(とみた ひろし)

先生は東北大学に在籍中から、緑藻単細胞生物であるクラミドモナスに発現しているチャネルロドプシン2という蛋白質に注目し、この遺伝子を使って視覚を再生する治療法の開発に取り組んでこられました。これを含め、光活性化チャネル遺伝子を使った治療法の臨床応用の見通しをうかがいました。

 —— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇—— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ —— ◇ ——

問:先生は長年チャネルロドプシン2の遺伝子治療を目指して努力されてきました。いよいよ臨床試験が始まっているとうかがいました。
答:チャネルロドプシン2を使った遺伝子治療の実現のため、2006年4月に特許の出願をしましたが、その半年前にアメリカのレトロセンス社が出願しておりそちらが認められました。そこでなるべく早くこの治療法を実現するため、それまでの研究結果を同社に提供し、共同して開発を進めてきました。レトロセンス社は2016年春、ダラスで臨床試験を開始、途中経過が近いうちに発表される予定です。同社はつい最近アメリカの目薬の大手であるアラガン社に買収され、今後はアラガン社が臨床試験を進めると聞いています。

問:チャネルロドプシン2は青い光しか感じないので、先生方はすべての色を感じるたんぱく質の遺伝子を作られました。そちらの臨床応用の見通しは?
答:クラミドモナスとは別の緑藻類であるボルボックスに発現しているタンパク質VChR1が赤い光を感じることに注目、この遺伝子を改変して青、緑、赤など可視光のすべてを感じるタンパク質、改変型VChR1の遺伝子を作りました。こちらは最近特許の取得に成功し、その後東北大学が作ったベンチャー企業クリノに譲渡しました。クリノはアステラス製薬とライセンス契約を結び、アステラス製薬が治験に向けて準備を進めています。私はレトロセンス社の顧問という立場上、アステラス製薬の研究開発には関与していません。

問:遺伝子治療の治験に進むには、どのようなことが求められますか?
答:遺伝子治療にはウイルスベクターが必要ですが、眼科領域ではこれまで例が少なく、決まったメニューが存在しません。そのため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら進めていく必要があります。治験までのプロセスはおおむね次のようになります。
①GMPに沿った施設でウイルス製剤を作製し、その品質のチェックを行ないます。たとえば、純度、夾雑物、細胞に対する感染効率などを調べます。何回か作って、ロットごとに品質をチェックし、いつでも同じ品質で製造できる薬剤であることを示します。
②GLP適合施設で前臨床試験の安全性試験を実施しなければなりません。試験項目は、遺伝毒性、安全性薬理、薬効薬理、薬物動態などです。対象動物も含め、PMDAと協議しながら実施します。ラットの安全性試験は終了し、カニクイザルでの試験が残っています。1回眼内注射で投与し3ヵ月間モニターします。
③前臨床試験の薬効・薬理試験についてはラットの縞視力の測定(いわゆる首ふり試験)と視覚誘発電位の測定を実施しました。試験はGLP施設で行なう必要はありませんが、すべてのデータをPMDAに提出しチェックを受ける必要があります。

問:しばらくは治験に直接関与されないとのことですが、現在、あるいは今後どのような研究をされるお考えですか?
答:ラットの首ふり実験の信頼性を高めるため、録画し、首ふり回数を機械的にカウントする方法を開発中です。また、遺伝子導入した網膜神経節細胞が光を受け、その刺激が脳でどのように認識され、どのように見えるかは未解明です。視覚心理学を専門とする先生との共同研究では、真っ白な部分はやや灰色に、真っ黒な部分も少し灰色になるものの、りんかくが強調された画像となるというようなシミュレーション結果が得られています。あくまでもシミュレーションであり、これを動物実験で今後明らかにしていきたいと考えています。また、長期的には、色覚を回復する研究、また網膜変性を遺伝子治療で保護する研究を進めたいと考えています。

問:最後に、全国のRP患者へ、ひと言メッセージをいただけますでしょうか。
答:2005年にこの研究に着手し、11年の歳月が過ぎました。何度も研究継続の危機がありましたが、JRPS主催の医療講演会にご招待いただき、多くの方々から力をいただきました。ありがとうございました。まだ、ゴールは少し先になりますが、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

Wings ひとくちコラム第3回

GMP、GLPとは?

治験を実施するためには、前提として法律や省令に定められた基準をクリアする必要があります。その基準の中にGMPとGLPがあります。GMPとはGood Manufacturing Practiceの略で、治験薬を製造する際に遵 守すべきガイドラインのことです。治験薬の品質を保証することで、品質不良の治験薬から被験者を保護することを目的としています。一方、GLP とはGood Laboratory Practiceの略で、主に動物を 使って行なう前臨床試験、とくに安全性試験を適切に実施するための基準です。例えば、ある試験受託機関は全国各地に試験センターを持ち、医薬品、医薬部外品、医療機器、再生医療等製品、化粧品、食品など、幅広い分野において化学物質の安全性を確認するための試験を行なっています。

 

次回★Wings研究者インタビュー 第7回
弘前大学  中澤 満先生に聞く
~カルシウム阻害薬を用いたRPの進行抑制~

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第3回Wings ひとくちコラム

GMP、GLPとは?

治験を実施するためには、前提として法律や省令に定められた基準をクリアする必要があります。その基準の中にGMPとGLPがあります。GMPとはGood Manufacturing Practiceの略で、治験薬を製造する際に遵 守すべきガイドラインのことです。治験薬の品質を保証することで、品質不良の治験薬から被験者を保護することを目的としています。
一方、GLP とはGood Laboratory Practiceの略で、主に動物を 使って行なう前臨床試験、とくに安全性試験を適切に実施するための基準です。例えば、ある試験受託機関は全国各地に試験センターを持ち、医薬品、医薬部外品、医療機器、再生医療等製品、化粧品、食品など、幅広い分野において化学物質の安全性を確認するための試験を行なっています。

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