第2回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第1回 
岡山大学医学部(眼科)松尾俊彦先生、工学部内田哲也先生
「岡山大学方式人工網膜「OUReP」の開発
~ 医師主導治験の見通し ~」

●岡山大学方式人工網膜の治験を計画されているとお伺いしました。この人工網膜の特長、また臨床応用の前提となるご研究についてお伺いします。

問:まず岡山大学方式の人工網膜の特長を説明していただけますか?
答:光を電位差に変換する光電変換色素分子をポリエチレンフィルムに化学結合して使用します。電位差を出力して、近傍の神経細胞を刺激します。10の7乗から8乗個の色素分子が1つの神経細胞に接しています。ポリエチレンフィルムは薄くて柔らかいので、大きなサイズ(直径10ミリメートル大)まで植込み可能です。つまり、広い視野をカバーすることが可能です。

問:どの位の回復視力が期待できますか?
答:網膜色素変性モデルラットでは、行動評価から換算して、0.005以上の視力が得られています。ヒトでも同等に見えれば、アイパッドなどで拡大して字が読めます。日常生活の改善、字を読むことが目標です。理論的には、網膜本来の解像度が期待できます。

問:人工網膜の眼内での耐久性、また安全性はどのくらい分かっていますか?
答:ウサギに6ヵ月植込んで摘出した人工網膜の機能を解析しています。光に対する反応性は保持されています。安全性評価のすべての試験で毒性はありません。6ヵ月埋植試験もウサギで実施しています。

●計画されている治験について、次にお伺いします。
問:人工網膜は眼内のどこに挿入しますか? 挿入した後に交換可能ですか?
答:網膜色素上皮と神経網膜の間に挿入します。網膜剥離で剥がれるのが、この網膜色素上皮と神経網膜の間です。技術的には交換可能ですが、人工網膜を植込むよりも摘出するほうが手術的侵襲は大きいので、無害ならば、植込んだままにしたほうがよいと考えます。2枚目の人工網膜は、先に植込んだ人工網膜の上(神経網膜側)に重ねて入れるのがよいのではと考えます。

問:被験者の募集人数、また選択基準、除外基準は?
答:最初の募集は5人です。ヒトで初めてですので、両眼とも「光覚弁なし」の方で、光干渉断層計(OCT)で網膜層構造が残っている方です。除外基準は、緑内障、角膜疾患がある方、全身状態が悪い方、認知症などの方です。

問:麻酔の種類、手術時間、入院日数、外来通院頻度、効果判定時期は?
答:手術は局所麻酔下1、2時間で終了します。入院は5日間、通院は14、28日目、2、3、6、12、24ヵ月目です。効果判定時期は術後28日です。

問:有り得る有害事象は?
答:網膜剥離、硝子体出血、緑内障、眼内炎です。

問:治験での評価項目は? 二重盲検試験(くじ引き試験)を要求されますか?
答:主要評価項目は安全性、副次評価項目は、探索的効果(視力、視野)です。Feasibility study(探索試験)5人の後、pivotal study(検証試験)20~25人を実施します。前者で効果があれば医療機器製造販売承認申請が早くなります。医療機器ですので、医薬品とは違い、二重盲検試験は不要です。

問:製造・販売企業の見通しは? 将来的に、治療費用はどのくらいかかりますか?
答:岡山大学が大手の製造販売業企業と交渉を進めています。心臓ペースメーカーの費用は100万円くらいで、同程度の金額を想定しています。通常の硝子体手術と同額になり、それプラス、人工網膜の費用となります。保険償還を目指します。

問:治験開始の時期はいつ頃ですか?
答:医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談、今年度内の開始を目指しています。

カテゴリー: Wings通信 | コメントする

第3回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第2回 
山梨大学飯島裕幸先生に聞く
~病気の進み具合が予測できる~

ハンフリー視野検査から網膜色素変性症の進行を予測する方法を考案された山梨大学医学部眼科教室の飯島裕幸教授にいろいろお話をお伺いしましたので、その概要を質疑形式で報告します。

問:ハンフリー視野計測というのはどういうものですか。
答:視覚障害の等級判定ではゴールドマン視野計が使われていますが、ハンフリー視野計は、主に中心部の視野、視野角で30度以内での光の見え方を詳しく測定することができます。ハンフリーはあるけれどもゴールドマンはないという病院もあり、現在、日本眼科医会ではハンフリー視野検査も視覚障害の等級判定に使えるように厚労省に要望しています。

問:どのようにして病気の進行状態を予測するのですか。
答:70歳、80歳になったRP患者さんでも視力や視野がまだまだ残っている方もたくさんおられます。病気は徐々にしか進行しませんから、若い患者さんに希望を持って貰うために病気の進行具合をお知らせして、将来の見え方の予測をすることを考えました。具体的には先ほど申し上げたハンフリー視野計で10度の視野内の68個の検査点での感度を測定し、重みをつけた平均値であるMD値を求めます。MD値はそのひとの眼全体の感度の代表値になります。これを、4、5年の間計測し、時間的なグラフにすると、S字の両端を左右に引き伸ばしたような、いわゆるシグモイド曲線になります。何百人もの患者さんのデータから、病気の初期の頃と病気がうんと進んだ時期を除くとMD値の時間経過はほぼ直線的であることが分かりました。その直の傾きからそのひとの眼の悪化の進行速度や何歳まで視野が残っているかが予測できるわけです。

問:実際に生活しているうえでは視野とか視力とかに関係なく、なんとなく良くなったとか悪くなったとか言っているように思うんですが、見え方の総合的な指標はないのでしょうか。
答:同じ視力0.5の人でも、視野の狭いRPの人と視野が正常な健常者では不便さはまるっきり違います。見え方の不便さは視力だけでは表せません。視力は隣り合った2本の線の間隔(日本の検査ではいわゆるCの字の切れ目の両端)が接近したとき、どこまで別々の線として見分けられるかという能力を視野の中心部で検査するものです。一方、視野は視線の先の部分だけでなくその周囲の広い範囲の見え方を評価するので、視力とは全く異なる機能です。視力と視野の両者を包含するような検査指標はありません。
また、遺伝子の異常と視野進行の速度については関係があるらしいのですが、はっきりしたことは分かっていません。同じ異常遺伝子異常であるはずの家族内の異なる患者さんの間でも、さきほどのハンフリーのMD値の傾きが同じとは限りません。

問:先生の方法で、薬なり治療法なりの有効性の検証はできますか。
答:MD値の傾きが分かっている患者さんで、ある治療を開始してからのMD値の傾きが明らかに平坦になれば、その治療が進行を遅らせたという証明になります。ただし、評価には時間がかかります。

カテゴリー: Wings通信 | コメントする

第4回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第3回
理化学研究所 高橋政代先生に聞く
~網膜再生医療の未来について~

再生医療による加齢黄斑変性症の治療を目的とした臨床試験に携わっておられる高橋政代先生に、この研究を含め、RP治療に向けた現状と今後についてのお話を伺いました。

問: 加齢黄斑変性症2例目の移植手術が見送られた経緯は?
答: 患者本人の細胞からiPS細胞(自家iPS細胞)を作成し、移植に向けて網膜色素上皮細胞に分化させたところ、遺伝子のいくつかに変異が見つかった。これらの変異は、腫瘍形成との関連性は低いと考えられている上、網膜色素上皮細胞の特性として腫瘍化しにくいことから、この細胞の安全性には確信を持っていた。しかし、変異によるリスクに対する議論が過熱し、移植予定であった患者の容体が安定していたこともあり、安全性に関するコンセンサスが広く得られるまで移植を中断することに決めた。このコンセンサスを得るうえで重要となる、iPS細胞の臨床応用における安全性評価の指針が文科省と厚労省の間で今年度中に策定される見通しとなっている。

問: 他家iPS細胞(他人の細胞)を用いた臨床試験を開始すると聞いたが?
答: 自家細胞の研究を中止するわけではないが、将来の治療に向けて本格的に再生医療を臨床へ導入することを考えると、コストが安く、時間も大幅に短縮できる他家細胞の使用は不可避である。自家細胞を使うと、年間2名の患者しか治療できず、一人当たり5000万円程度の費用が掛かってしまう。一方、他家細胞を使うと、一度に100人分の移植用細胞を調整することも可能で、より現実的な費用で多くの患者を治療できる。京都大学iPS細胞研究所では、多くの方とマッチする特殊な白血球の型を持つヒトから作成したiPS細胞バンクが構築されつつあり、患者に適合する細胞を用いた他家移植に向けて準備が整いつつある。他家細胞を用いた臨床試験は、早期に開始できるように進めている。(株)ヘリオスでは、薬事承認を取得するために、細胞をばらばらにした浮遊液を用いた治験を2017年中に開始すると発表している。

問: 再生医療によるRP治療の見通しは?
答: RPが進行した患者の治療を目指して、iPS細胞から作成したシート状の網膜組織を移植する方法を優先的に研究している。このシートを移植した際に、どのようにものが見えているかを本当に知るためには脳の状態を観測しなければならない。この脳の研究も準備しているが、短期的に結果が出るものではない。よって、動物実験で細胞の移植後に光を感じることが確認できた段階で、網膜組織移植術のヒトへの応用を考えている。時期などについては規制当局との話し合いになると思われる。
シートの作成は日々進歩しており、病気の進行度合いに応じて、バラバラにした細胞の移植、シート状細胞の移植など多くのアプローチが考えられている。ヒトに対する臨床試験は、3、4年後の開始を目指している。

【インタビューを終えて】
高橋先生を含め、世界中で多くの研究が進められています。研究者は多くの難問を解決しながら、私たち患者がより良い生活を取り戻せるように努力を重ねています。科学的/医学的難問を解決すると同時に、その成果を社会的にも受け入れてもらわなければなりません。この両方を研究者だけの力で達成することはとても困難です。
研究が進むほどに、患者としていかに臨床研究と向き合うか、どのように研究者を後押しするかが重要になってきます。治療法を待つだけではなく、その過程にいかに関わっていくかを皆で考える時期に来ています。研究が進んでいるとはいえ、今日明日で治療法が確立するわけでもありません。視力の残っている人は、どうかそれを大事にしてください。有効な視力がない人も、体調を整え、網膜が少しでも良い状態であるように心がけてください。皆で頑張りましょう!

カテゴリー: Wings通信 | コメントする

第5回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第4回
九州大学眼科池田康博先生に聞く ~視細胞保護遺伝子治療のこれから~
RP患者を対象とする神経栄養因子PEDFの遺伝子治療臨床研究を実施されている池田先生に今後の見通しなどをお話しいただきました。

問:2013年3月から臨床研究を開始されたそうですが、これまでの経過は?
答:今回の臨床研究は遺伝子導入ベクターを目に投与することの安全性を確認することが第一の目的です。5名に遺伝子導入ベクターを投与して2年間経過しましたが、重篤な副作用は観察されていません。

問:「医師主導治験」という新たな枠組みで研究する準備をされていると伺いました。その背景や見通しは?
答:臨床研究だけでは遺伝子治療を患者さんに届けられません。治験という過程をクリアしてはじめて、薬として使用することが許可されます。そこで2年後の治験開始を目指して準備しています。日本医療研究開発機構(AMED)から資金を提供していただくことになり、実施の可能性が広がりました。これまでの臨床研究では視力の悪い人に半ばボランティア的な意味合いを含めて研究に参加していただきました。その結果、大きな合併症など起こらないことが分かったので、これからは治療効果の判定がしやすいもっと視力のよい人にもエントリーしていただく予定です。

問:通常の薬の治験のように、二重盲検試験をするのですか?
答:安全性を調べる第1相試験と探索的に有効性を調べる第2a相試験では、対照群は置きません。有効性を確認するための第3相試験については、規制当局の医薬品医療機器総合機構(PMDA)がどう判断するか、現時点では分かりません。

問:治験ではどのような指標で有効性を調べますか?
答:RPは進行が遅く、薬の有効性評価が難しいのが実情です。今のところハンフリー視野計による視感度の検査もしくは改良型のマイクロペリメータMP-3による網膜感度の検査を考えています。しかし、どちらも自覚検査なので、客観性に難点があります。患者のその日の状態によって、成績がいいときと悪いときがあります。そこで客観的なマーカー分子を見つける努力をしています。視細胞の死んだ量に比例して増減する分子が血液か眼房水に見つかれば、評価はずっと容易になり、かつ短期間にできます。

問:人によって薬の効きかたが違うとも聞きますが。
答:RPは原因となる遺伝子もさまざまで、遺伝子診断にもとづく病型分類ごとに治療方針を考えるのが理想的です。試験参加者の多様性により、効果の出やすい患者と出にくい患者が混じってしまうと、有効性の証明が困難になります。遺伝子を調べて病型をもう少し細分化できると、各グループに対応したより効果的な治療薬を開発できる可能性が高まります。

問:そのためにもRPの疾患登録(レジストリ)が必要ではないかと。
答:そうですね。レジストリを立ち上げるとなると、どうしても資金が必要ですし、また原因遺伝子の情報が背景にないといいものにならないので、ここがネックになります。

問:RPの難病登録の臨床調査個人票には、本人同意の上で遺伝子診断の結果を記入する欄があります。これを充実させる形で、目的のレジストリができる可能性はないですか?
答:個人票のデータは現在のところ自治体で管理されているので、まずはそれを一括して管理する必要があります。難病の研究班が呼びかける可能性はありますが、現時点では不明です。もちろん遺伝子研究をされている先生方の協力も必要不可欠です。

問:患者としては、行政やさまざまな立場の先生が一丸になって進めてもらいたいです。
答:必要性は誰もが認めているので、何とか実現するようにしたいですね。

【インタビューを終えて】
前回は、光を失った患者に視細胞を移植することによって視力を回復する試みについて、高橋政代先生にお話しいただきました。今回は、視力を失ってしまう前に、病気の進行を遅らせたり、止めたりする治療のお話です。RPの症状は多種多様であるため、私たち患者にとってはどちらの研究も重要となります。米国では、特定の網膜疾患(レーバー先天盲)に対する遺伝子治療を近い未来に国が認可するのではないかと言われています。患者の要望があれば、日本でも承認申請する準備があるとの噂もあります。病型をここまで限定しない池田先生の治療法にも期待が高まります。日進月歩と言わず、秒進分歩くらいで研究を進めていただきたいところですが、既にお忙しい先生が倒れてしまっては元も子もないので、私たちは少しでも目を労わりながら研究の成果を待つことにしましょう。

カテゴリー: Wings通信 | コメントする

第6回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第5回
RP患者を対象に、新規薬物KUSおよび分岐鎖アミノ酸の神経保護治療の治験を計画されておられる京都大学医学部附属病院臨床研究総合センターの池田華子先生にお話をうかがいました。

問:先生は2015年にJRPSの研究助成を受賞されました。さまざまな機会にご研究の内容をうかがっていますが、あらためてこれまでの成果を簡単にまとめていただけますか?
答:私たちは京都大学が新規に開発した化合物(KUS,Kyoto University Substance)がRPのモデル動物で病気の進行を抑えることを明らかにしました。RPの症状を示す2種類の遺伝子改変マウスやウサギに全身投与したところ、視細胞の脱落が抑制され、また網膜伝図検査で視力がよく保たれていることが分かりました。またKUSの研究にヒントを得て分岐鎖アミノ酸製剤(ロイシン、イソロイシン、バリン)をRPモデル動物に投与したところ、同様の効果があることが分かりました。これらの薬剤がRPの患者さんに対して、進行予防の新たな治療薬になる可能性があります。とくに分岐鎖アミノ酸はすでに他の病気の治療薬として長期間使われていますので、安全性に問題はありません。そこで、分岐鎖アミノ酸の神経保護効果を検証する治験の準備をしており、視機能の経過に関する自然経過観察を臨床研究として行なっています。

問:臨床研究のデータは治験にどのように活かされますか?
答:今回の治験の第1段階は、第II相探索的試験と言って、とりあえず何らかの効果が得られるかどうかを調べたいと考えています。なるべく少ない人数で最大限の効果を出したいと思っています。症状が進行していない人が試験に入ると、薬の効果が見えにくくなりますので、臨床研究で視野進行が見られた患者さんを選んで試験をします。薬剤の効果は、治験開始後の進行を薬剤投与前の臨床研究データと比較して判定する予定です。各個人内あるいはグループとして比較します。

問:どのような視機能を検査しますか?
答:ハンフリー視野計で視野検査を行ない、視野の広さと感じる光の強さを表すTotal
point scoreを算出します。自覚的検査ですので、その日の体調その他が結果に影響します。それでも検査の回数を稼ぐことによって(例えば2ヵ月毎に6回検査することで)、十分な精度が確保できることが分かってきました。

問:今回の探索的試験ではっきりした効果が出ると期待してよいですか?
答:やはり個人差があると思いますので、どのくらいクリアな結果が出るのか不明です。ただ、RPに対する治療薬が何もないという現状ですので、一定の効果が出れば次の段階、第III相試験に進めると考えています。

問:第III相試験は、第II相試験と同様の試験を大規模にやるのですか? それとも無治療群を置いたランダム化比較試験をするのですか?
答:事前のデータで被験者を絞るようなことにはならないかもしれません。絞らないと効果が見えにくくなりますが、これは医薬品医療機器総合機構(PMDA)との相談になると思います。また、探索的試験で明らかに薬効があるのに無治療群を置く試験を実施するのは倫理的にどうかという意見もありますが、これもPMDAとの相談になります。

問:KUSの治験開始の見通しはどうですか?
答:この秋から、硝子体内に直接注射する形で、重篤な急性眼疾患である網膜中心動脈閉塞症の急性期の患者さんでの治験を開始します。RPの患者さんには長期に使っていただきたいので、点眼で投与できるように研究しています。また、内服薬としての開発も同時に進めています。点眼になるか、内服になるか、今後の研究の推進次第ですが、いずれにしても1年後をめどに臨床応用をはじめたいと思っています。KUSは新規の化合物ですので、まずは正常な方を対象に第I相試験を行ない安全性の検討をします。ついで、RPの患者さんを対象に第II相試験を実施します。

問:先生のご苦心と治療薬開発に向けた流れがよく分かりました。最後に全国の患者にメッセージをいただけますか?
答:KUSのほうは、ようやく、他疾患ではありますが、人に投与できるところまでこぎつけました。ここにきて、点眼や内服薬の開発も加速していますので、必ずや皆さまにお届けできるよう、頑張っていきます。分岐鎖アミノ酸製剤を用いた治験ですが、資金のめどが立ち次第開始したいと考えております。現在実施中の、分岐鎖アミノ酸の臨床研究に関心を持って下さる方がおられましたら、京都大学眼科にお問合せください。
(メール:rpkyoto@kuhp.kyoto-u.ac.jp、電話:075-751-3727[眼科外来]。お電話はすぐには対応できないことが多いですので、可能でしたら、メールでお願いいたします)。また、なるべく、最新の情報をHP(http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~ganka/html/shikihen2.html)やFacebook(https://www.facebook.com/京都大学網膜神経保護治療プロジェクト-312249548958205/)で公開していきますので、よろしくお願いいたします。

カテゴリー: Wings通信 | コメントする

第7回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第6回 
岩手大学 冨田浩史先生に聞く
~遺伝子治療による視覚再生-臨床に向けた取り組み~

岩手大学理工学部化学・生命理工学科 視覚神経科学研究室の 冨田 浩史(とみた ひろし)先生は東北大学に在籍中から、緑藻単細胞生物であるクラミドモナスに発現しているチャネルロドプシン2という蛋白質に注目し、この遺伝子を使って視覚を再生する治療法の開発に取り組んでこられました。これを含め、光活性化チャネル遺伝子を使った治療法の臨床応用の見通しをうかがいました。

問:先生は長年チャネルロドプシン2の遺伝子治療を目指して努力されてきました。いよいよ臨床試験が始まっているとうかがいました。
答:チャネルロドプシン2を使った遺伝子治療の実現のため、2006年4月に特許の出願をしましたが、その半年前にアメリカのレトロセンス社が出願しておりそちらが認められました。そこでなるべく早くこの治療法を実現するため、それまでの研究結果を同社に提供し、共同して開発を進めてきました。レトロセンス社は2016年春、ダラスで臨床試験を開始、途中経過が近いうちに発表される予定です。同社はつい最近アメリカの目薬の大手であるアラガン社に買収され、今後はアラガン社が臨床試験を進めると聞いています。

問:チャネルロドプシン2は青い光しか感じないので、先生方はすべての色を感じるたんぱく質の遺伝子を作られました。そちらの臨床応用の見通しは?
答:クラミドモナスとは別の緑藻類であるボルボックスに発現しているタンパク質VChR1が赤い光を感じることに注目、この遺伝子を改変して青、緑、赤など可視光のすべてを感じるタンパク質、改変型VChR1の遺伝子を作りました。こちらは最近特許の取得に成功し、その後東北大学が作ったベンチャー企業クリノに譲渡しました。クリノはアステラス製薬とライセンス契約を結び、アステラス製薬が治験に向けて準備を進めています。私はレトロセンス社の顧問という立場上、アステラス製薬の研究開発には関与していません。

問:遺伝子治療の治験に進むには、どのようなことが求められますか?
答:遺伝子治療にはウイルスベクターが必要ですが、眼科領域ではこれまで例が少なく、決まったメニューが存在しません。そのため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら進めていく必要があります。治験までのプロセスはおおむね次のようになります。
①GMPに沿った施設でウイルス製剤を作製し、その品質のチェックを行ないます。たとえば、純度、夾雑物、細胞に対する感染効率などを調べます。何回か作って、ロットごとに品質をチェックし、いつでも同じ品質で製造できる薬剤であることを示します。
②GLP適合施設で前臨床試験の安全性試験を実施しなければなりません。試験項目は、遺伝毒性、安全性薬理、薬効薬理、薬物動態などです。対象動物も含め、PMDAと協議しながら実施します。ラットの安全性試験は終了し、カニクイザルでの試験が残っています。1回眼内注射で投与し3ヵ月間モニターします。
③前臨床試験の薬効・薬理試験についてはラットの縞視力の測定(いわゆる首ふり試験)と視覚誘発電位の測定を実施しました。試験はGLP施設で行なう必要はありませんが、すべてのデータをPMDAに提出しチェックを受ける必要があります。

問:しばらくは治験に直接関与されないとのことですが、現在、あるいは今後どのような研究をされるお考えですか?
答:ラットの首ふり実験の信頼性を高めるため、録画し、首ふり回数を機械的にカウントする方法を開発中です。また、遺伝子導入した網膜神経節細胞が光を受け、その刺激が脳でどのように認識され、どのように見えるかは未解明です。視覚心理学を専門とする先生との共同研究では、真っ白な部分はやや灰色に、真っ黒な部分も少し灰色になるものの、りんかくが強調された画像となるというようなシミュレーション結果が得られています。あくまでもシミュレーションであり、これを動物実験で今後明らかにしていきたいと考えています。また、長期的には、色覚を回復する研究、また網膜変性を遺伝子治療で保護する研究を進めたいと考えています。

問:最後に、全国のRP患者へ、ひと言メッセージをいただけますでしょうか。
答:2005年にこの研究に着手し、11年の歳月が過ぎました。何度も研究継続の危機がありましたが、JRPS主催の医療講演会にご招待いただき、多くの方々から力をいただきました。ありがとうございました。まだ、ゴールは少し先になりますが、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

カテゴリー: Wings通信 | コメントする

大石 明生先生(京都大学医学部附属病院 眼科)

受賞テーマ:
次世代シークエンサーを用いた網膜色素変性症の網羅的変異スクリーニング

網膜色素変性症が遺伝性疾患であることはよくご存知のことかと思います。では皆さんの中でご自身の病気が、どの遺伝子の変異によって起きているのか、ご存知の方はどのくらいおられるでしょうか。おそらくほとんどの方はご存知ないかと思います。
このように遺伝性疾患でありながら、原因遺伝子の検査がそこまで一般的でないということの一つには、これまで原因遺伝子を調べようとしてもなかなか特定できなかったという事情があります。
網膜色素変性症の原因としてこれまでに報告されているだけでも56の遺伝子があるので、これらを一つ一つ調べるということは非常にコストや手間がかかる作業となり、現実には難しかったわけです。また多くの報告は欧米から出ていて、日本人で同じ遺伝子を調べても同じような割合では変異が見つからないということも原因遺伝子の検索を困難にしていました。
しかし近年では遺伝子解析機器の技術が進歩し、多くの遺伝子を一気に調べることが可能となってきました。今回の研究ではこれまで網膜色素変性症の原因として報告されている遺伝子に加え、網膜の他の変性疾患の原因となっている遺伝子、網膜に発現していて病気の原因になりうると思われる遺伝子369個を選び出して調べる、ということを試みます。
解析が順調にいけば、これまで報告されている遺伝子については比較的容易に、さらにこれまで分かっていない新しい遺伝子もみつけることが可能になるのではないかと考えています。
原因遺伝子を調べても現時点で直ちに治療につながる訳ではありませんが、海外では特定の遺伝子変異に対しては、正常の遺伝子を補うことで進行を遅らせるといった治験が始まっていたり、内服薬の効果が原因遺伝子によって異なるといった報告が出たりしており、個々の患者さんがどのような変異を持っているかは、将来的により重要な情報になっていくだろうと考え研究を行なっています。

カテゴリー: JRPS研究助成 | コメントする

村上 祐介先生(九州大学大学院医学研究院 眼科学分野)

受賞テーマ:
ゲノム酸化損傷を標的とした網膜色素変性に対する治療法の開発

この度は、第17回JRPS研究助成金を賜り、大変うれしく、また光栄に感じております。JRPS理事ならびに会員の方々に深く感謝いたします。
網膜色素変性(RP)は、視細胞の働きに重要な遺伝子のキズによって視細胞が脱落し、徐々に見え方が悪くなっていく病気です。これまでに50種類以上もの原因遺伝子が同定されていますが、これらの遺伝子のキズによって、なぜ、またどのようにして視細胞の死が引き起こされるのかは良く分かっておらず、有効な治療法も開発されていません。
病的な環境において、細胞は様々なストレスに晒されますが、中でも酸化ストレスは病気の悪化に大きく関係すると考えられています。とくに生命現象の源であるゲノムの酸化は、その蓄積によってDNAのキズを生じ、癌や神経変性疾患など様々な病気の原因となることが知られています。そこで我々は、ゲノムの酸化に注目して、そのRPへの関わりについて研究を行なっています。具体的には、RPモデル動物を用いて、ゲノムの酸化修復に重要であるMTH1やMUTYHの発現を遺伝子レベルで調整し、その視細胞死に対する影響を調べています。これまでの研究から、RPの網膜ではゲノムの酸化が著しく増加していること、MTH1の過剰発現によって視細胞のゲノムの酸化が修復され、視細胞の脱落が抑制されることが分かっています。本研究ではさらに、MTH1の下流で働くMUTYHに注目し、そのRPにおける役割について研究を行ないます。
本研究は、これまでに我々が提唱してきたゲノムの酸化による視細胞死誘導のメカニズムについて、分子レベルでの理解を深めるだけでなく、ゲノム酸化損傷を標的としたRPに対する新しい分子標的薬、遺伝子治療薬の開発につながる可能性があります。今回賜りました助成金を励みに、RPの研究発展に少しでも貢献できるよう、研究を進めていきたいと思います。

カテゴリー: JRPS研究助成 | コメントする

上野 真治 先生(名古屋大学大学院医学研究科 眼科学講座)

受賞テーマ:
網膜色素変性におけるバイオマーカーの探索

この度は、第18回JRPSの研究助成を受賞することができ、大変光栄に感じております。私の研究課題は「網膜色素変性におけるバイオマーカーの探索」です。
網膜色素変性の患者さんが期待されていることの一つが、網膜変性の進行を止める治療を開発してほしいということだと思います。実は、動物実験では多くの薬物が網膜変性の進行を抑制すると報告されております。しかし、患者さんにその薬物を投与してみる臨床治験では効果が認められないということが非常に多いのです。この動物実験と臨床試験のギャップが生じる理由の一つは、臨床試験で治療の効果を適切に評価することが難しいことが原因だとされています。網膜色素変性の患者さんを診察しても、視野や視力は1-2年ではほとんど変わりません。そのため、開発された薬物が、網膜変性の進行を抑制したということを確認するには、多くの時間と多くの症例数が必要になり、実は非常に難しいのです。
そこで私は、患者さんの眼の中の水(前房水)に、網膜変性が進行する時に変動するようなマーカーを見つけようと考えております。これは、採血をして、糖尿病の患者さんが血糖値を気にしたり、腎臓の悪い患者さんが腎臓の機能の数値を気にしたりするのと同じような指標を見つけようとすることです。このような試みにより多くの癌のマーカーなども見つかっております。
今回の研究では患者さんから前房水をとるのは侵襲がありますので、網膜変性を起こすウサギを使って調べようと考えております。マーカーを発見することにより、お薬の効果を効率よく判定し、網膜色素変性の患者さんの治療法の確立に役立てればと考えております。

カテゴリー: JRPS研究助成 | コメントする

岩田 岳 先生(独立行政法人国立病院機構東京医療センター)

(感覚器センター)
受賞テーマ:
網膜色素変性の網羅的遺伝子解析と病因・病態機序の解明

網膜色素変性(RP)の多くは遺伝子の変異によって発症することが知られています。今までの解析方法を用いた場合、すでに知られている73種類の原因遺伝子を調べるには時間がかかり、結論が出ない場合さえあります。しかし、この数年間で遺伝子解析の技術革新が起こり、全ての遺伝子配列を調べて病気の原因を数ヶ月で調べられるようになりました。さらに、これまで研究用に利用されてきたこの技術が診断用として利用されるようになり、価格はこの3年間で1/5にまで下がり、今後さらに下がる見込みです。
私たちはこの新しい遺伝子解析の技術を使い、厚生労働省の支援のもと、多くの患者さんとご家族の皆さまのご協力を得て、多数のRPの原因となる遺伝子変異(変化)を解明してきました。この中には日本で初めて発見された遺伝子変異が多数含まれています。これらの新しい変異についてはそれぞれの担当医から論文として発表あるいは投稿されています。
また、これまでに知られていなかった原因遺伝子も発見され、発症のしくみを動物モデルやiPS細胞を使って研究しています。一つの遺伝子でも病気のしくみを解明するためには複数の研究員がさらに数年間かけて研究する必要がありますが、これらの基礎的な研究データは将来の治療に役立つと考えて日々研究を行なっています。
これまでの研究成果が厚生労働省に認められ、さらに今後3年間の研究継続が承認されました。今後は日本臨床視覚電気生理学会や全国の研究拠点と連携させていただきながら、RPを含む遺伝性網膜疾患について、より高い精度とスピードで解析し、日本人のRPの原因遺伝子をさらに明らかにしてゆきたいと考えています。
この遺伝子解析を進めてゆくためには、RPの方々だけではなく、ご両親やご兄弟などのご家族の方々の遺伝子検査のご協力がますます必要です。今までの皆さまのご理解とご協力に感謝するとともに今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

カテゴリー: JRPS研究助成 | コメントする