第12回JRPS網脈絡膜変性フォーラム開催のご報告

2017年11月19日、大阪で第12回JRPS網脈絡膜変性フォーラムが開催されました。
5人の講演者のお話がすべて臨床試験に関わる内容で、治療が私たちに届く日が近づいていることの表れと感じました。「治療法が皆無の時代から自分に合った治療法を選択するように変わってきた」との指摘が印象に残りました。たくさんの内容から一部を紹介します。

①網膜色素変性に対する視細胞保護治療(九州大学 池田 康博先生)
視細胞保護のためのPEDF遺伝子治療の臨床研究で安全性を確認した。2018年度から治験を開始する。一方、RPの進行に影響する環境因子として炎症、酸化ストレス、循環障害などが分かってきた。環境因子の計測で進行の予測ができ、またこれらを抑える医薬品で治療ができる。

②網膜細胞移植と再生医療(理化学研究所 万代 道子先生)
iPS細胞由来網膜細胞が移植後に光に応答すること、またRPモデル動物が実際に光を感じるようになることを証明した。RP患者を対象とする臨床試験を2、3年以内に開始したい。最初の試験では光が分かったり、視野が少し広がる程度かもしれないが、段階的に効率を上げていける。

③チャネルロドプシンを用いた視覚再生研究(岩手大学 冨田 浩史先生)
青色光だけに反応するチャネルロドプシン2に代わって、可視光全般に反応する改変チャネル分子の遺伝子を作製した。製薬企業に技術移転して治験を準備中である。ICT技術によってより自然に見える方法を同時に開発している。

④遺伝性網膜疾患 診断から治療へのアプローチ(東京医療センター 藤波 芳先生)
遺伝性網膜疾患に対して、複数のステップで診断から治験導入が進められている。これを推進すべく、東京医療センターに「網膜疾患新規治療導入センター」が新設された。手動弁以下の重度視覚障害患者を対象として、正確な機能評価に基づき最適な治療(臨床試験)が選択できる。

⑤人工網膜による視覚機能の再建 -開発の現状と未来(大阪大学 森本 壮先生)
大阪大学が開発中の人工網膜の臨床研究が修了し、2018年度から治験を開始する。今のところ、ものの位置や動きは分かるが、色や形、それが何であるかは認識できない。今後、音声ガイドで何であるかを教えたり、視野を広げる装置の開発を進めたい。

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RIWC2018 in Auckland の日程のご案内

2年ごとに開催される世界網膜協会(Retina International)の世界大会は、2018年2月7日(水)から11日(日)まで、ニュージーランドのオークランド市において開催されます。RIWC2018 in Auckland 全体の日程(観光情報も含む)の案内は、コチラ(英語版)です。
各国代表団が参加するプログラムと日程、および一般人も聴講参加が可能なプログラム概要、さらにプログラムごとの参加登録の方法と登録料などの詳しい情報は、ニュージーランド網膜協会のホームページに掲載されています。
なお、専門家ではない方も参加ができるプログラムに関しては、日本語にしておきましたので、参加を検討されている方は、以下のリンクもご参照ください。

一般人が聴講・参加可能なプログラム概要(英語版は、コチラ

上記プログラム内容に関する資料(英語版は、こちら

文責:森田

 

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米NIHが遺伝子編集に1億9000万ドル拠出、臨床研究を加速

米国立衛生研究所(NIH)が、強力な遺伝子編集技術であるクリスパー(CRISPR)などを使って遺伝子編集の臨床実験をする研究者に対して、今後6年間で1億9000万ドルの研究費を拠出するというニュースが、2018年1月26日に発表されました。
NIHは特別な基金を作ることで、「できるだけ多くの遺伝疾患を治療できるように、遺伝子編集技術の臨床への移行を劇的に加速します」と、フランシス・コリンズ所長は述べていますが、一方で、デザイナーベビーに対する慎重な姿勢を崩してはいません。 米国の法律によってNIHは、編集された遺伝子が次世代に渡される結果になる胚の改変を含む研究への資金提供が禁止されているため、生殖細胞以外のヒトの体細胞の遺伝子を編集する研究案件だけを受け付けるとしています。
しかし、世界中の国々や地域を見渡し、将来のことを考えると、必ずしも万々歳という訳にもいかないように思えます。もっと長生きしたい。もっと背が高くなりたい。賢くなりたい。強くなりたい。いろいろな能力を伸ばしたい。どこかで、そういう人間の本源的欲望の誘惑に乗せられてしまう日がやってこないとは限りません。そういう将来の事態に危機意識を持った専門家もたくさんいて、メッセージを出していますので、リンクのページにに、その中から一つ紹介しておきましたので、英語のできる方は、コチラを視聴しておいてください。(文責:WEB管理人)

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第9回JRPS国際網脈絡膜変性フォーラム報告

2014年4月5日(土)、東京国際フォーラムにおいて、JRPSともうまく基金との共同で「国際網脈絡膜変性フォーラム」を開催しました。
国際眼科学会の一環として行なわれたこのフォーラムでは、まず、国際網膜協会(RI)のファッサー会長から「わたしたちはどこへいくのか?」というタイトルで、網膜色素変性の研究促進に果たすべき患者の役割についてスピーチが行なわれました。

1.日程:2014年4月5日(土)  14時~17時
2.会場:東京国際フォーラム・ホールB7-1
3.内容
コーディネーター 村上 晶(順天堂大学教授)、山本修一(千葉大学教授)、近藤峰生(三重大学教授)

パート①(前半) 90分

テーマ:疾患メカニズムと臨床試験
座長: 三宅養三(愛知医大理事長)
エバハルト・ツレンナー Eberhart Zrenner
(独・チュービンゲン大学教授)

Speakers
1.クリスティーナ・ファッサー Christina Fasser(Retina Internatgional 会長)
Where do we go?(我々はどこに向かうのか?)

2.イザベル・アウド Isabelle Audo(仏・国立パリ眼科病院助教授)
New horizon in gene analysis(新しい遺伝子解析の地平)

3.ポール・シービング Paul Sieving(米国NEI所長)
CNTF trial(CNTFのトライアル)

4.山本修一 Shuichi Yamamoto(千葉大学眼科教授)
Topical Unoprostone trial(ウノプロストンのトライアル)

 

パート②(後半) 90分

テーマ::網膜色素変性研究の最新情報
座長 :ポール・シービング Paur Sieving(米国NEI所長)
村上 晶, Akira Murakami(順天堂大学眼科教授)

Speakers

1.富田浩史 Hiroshi Tomita:(岩手大学工学部教授)
Channelrhodopsin-2(チャネル・ロドプシン2について)

2.アルツ・シデシアン ArturV.Cideciyan(米国シェイエ眼研究所教授)
Human Retinal Gene therapy(人の網膜の遺伝子治療)

3.エバハルト・ツレンナー Eberhart Zrenner(独・チュービンゲン大学教授)
Electronic retina implants (人工網膜について)

4.高橋政代 Masayo Takahashi(理化学研究所プロジェクトリーダー)
Retinal cell therapy(網膜細胞治療)

全国から集まった450人を超える参加者は、同時通訳のイヤホンからその内容を一生懸命に聞き取り、RPの研究が着実に進んでいることを実感できたという声も聞かれました。
講演後は、千葉県内ライオンズクラブさまのお計らいにより、場所をかえて講演者の方々を慰労するパーティが開かれ、患者理事、支援理事、もうまく基金との交流もなごやかに行なわれて、今回のフォーラムは無事に終了しました。
なお、この「国際網脈絡膜変性フォーラム」の講演内容は、会員に限り、「会員ページ」にて視聴できます。

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第10回JRPS網脈絡膜変性フォーラム報告

(公益財団法人日本眼科学会専門医認定事業)

日 時:2015年11月1日(日)13:00~15:00
会 場:高知プリンスホテル ダイヤモンド・ホール
(高知県高知市南宝永町4番2号)
主 催:一般社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
特定非営利活動法人 網膜変性研究基金(もうまく基金)
後 援:厚生労働省 高知県 高知市 公益社団法人 日本眼科医会
高知県眼科医会 愛媛県眼科医会 香川県眼科医会 徳島県眼科医会
広島県眼科医会 岡山県眼科医会 NHK高知放送局 高知新聞社
RKC高知放送 NPO法人 高知県難病団体連絡協議会
コーディネーター:山本 修一(千葉大学)
事務局:一般社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
〒140-0013 東京都品川区南大井2-7-9 アミューズKビル4F
TEL:03-5753-5156

【プログラム】
(1)開会
(2) 講演

13:00~
遺伝子から見た網膜色素変性
村上 晶(順天堂大学)

13:30~
神経保護による長生き戦略
山本 修一(千葉大学)

14:00~
iPS細胞を用いた網膜の再生医療
万代 道子(理化学研究所)

14:30~
人工網膜の現状
不二門 尚(大阪大学)

(3)閉会

 

講演要旨
遺伝子からみた網膜色素変性
順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座  村上 晶

網膜色素変性は遺伝的な多様性をもつ疾患である。近年の解析では変異をもつ遺伝子が50種類以上の発症と関連付けられている。個々の遺伝子の変化は限られた症例にのみ関連づけられるのみで、網膜色素変性の遺伝学的解析の大きな課題となっている。他の遺伝性網膜疾患と他臓器疾患や全身性疾患に合併する網膜変性を加えると少なくとも170種類の遺伝子において疾患と関連づけられる変異が同定されているが3分の1近くの原因遺伝子となるものは同定されていないという推定されている。網膜変性をきたす疾患の遺伝学的解析には、既知の遺伝子内の変化を明らかにするとともに未知の遺伝子とその中での変異を同定することが求められる。この数年で少数の疾患が対象ではあるが遺伝子補充療法が可能となり、一部は良好な成績を示している。患者さんの皮膚や血液の細胞からiPS 細胞を作製して、病態を解明し、そのメカニズムに基づいた治療を行う道筋もついてきた。
今後、遺伝学的検査を行うことの重要性は飛躍的に増してくることは疑いがない。
そのなかで、解析手段も、従来、広く用いられていきた、サンガー法を応用して自動シークエンシングにかわり、次世代シークエンシングが普及しつつある。遺伝子の解析が高速に、かつ、かつてにくらべれば安価に行うことが可能になったことは大きな意義がある。これまでは、労力と費用の面から限られて遺伝子の、しかもエクソンとその近傍のみの解析しか行えなかったものが、多数の候補遺伝子について、一度にエクソンの解析を行う解析が短時間で可能になり、さらに候補遺伝子内のイントロンの変化やプロモーター領域の解析を徹底して行い、遺伝子発現の影響のある変化を検討することも行われている。さらに解析精度を上げることで、かつては見逃されやすかった、大きな遺伝子の欠損やコピー数の変化なども検査することも可能になった。既知の遺伝子での変化が見つからないものは、全エクソン解析や全ゲノム解析を行って、未知の原因遺伝子変化を探索する研究も、精力的に進められている。
本講演では、我々、眼科医療に携わるものが理解しておきたい網膜色素変性の遺伝子関連研究を概説するとともに、急速にすすむ遺伝子研究の進歩の成果の受け皿を、医療のなかでどう準備していったらいいかを皆様と一緒に考えたい。

村上 晶( Akira Murakami )
1981年 順天堂大学医学部卒業
1981年 順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科 臨床研修医
1982年 順天堂大学医学部眼科 助手
1984年 日赤医療センター 眼科医員
1986年 国立精神神経センター神経研究所 流動研究員
1988年 米国National Eye Institute 留学
1989年 マイアミ大学医学部眼科 留学
1992年 防衛医科大学校眼科 講師
2000年 順天堂大学医学部眼科 講師
2003年 順天堂大学大学院医学研究科 眼科学講座教授(医学部教授併任)
現在に至る

 

講演要旨
神経保護による長生き戦略
千葉大学大学院医学研究院眼科学  山本 修一

定型網膜色素変性(RP)は、杆体の遺伝子異常が原因となって夜盲と視野狭窄が進行し、最終的には遺伝子異常のない錐体も変性して視力低下を来す。遺伝子異常があると、その遺伝子がコードするたんぱく質の異常が生じ、そのたんぱく質を使う細胞が変性に陥る。神経保護治療は、このような遺伝子異常による細胞の変性や、錐体細胞の変性を阻止あるいは遅くしようとする治療法である。
これまでにサプリメントではビタミンA、ドコサヘキサエン酸、ルテインがRPの進行を遅くすると報告されたが、RPにおけるサプリメントの効果は証明されておらず、過剰な服用は避けるべきである。
イソプロピル・ウノプロストンは、1994年に本邦で0.12%点眼液(0.12%レスキュラÒ点眼液)として承認され、眼圧下降作用に加え、網脈絡膜循環改善作用を有し、緑内障を対象に使用されている。BK-channel活性化作用によりアポトーシスを抑制し、またエンドセリンにより収縮した血管平滑筋を弛緩させることにより網脈絡膜の血流を増加させ、視細胞保護効果を示すと考えられている。千葉大学でパイロットスタディに引き続いて、網膜色素変性患者109例を対象に第2相臨床試験が行われ、ウノプロストン点眼による用量依存性の網膜感度改善効果が確認された。2013年から開始された国内多施設における第3相臨床試験では、52週の経過観察期間において、UF-021点眼群で主要評価項目であるハンフリー視野の網膜感度の有意な改善が認められたものの、プラセボ群との比較では有意差がみられなかったため、本試験の中止に至った。現在、層別解析が試みられており、追加試験も検討されている。
毛様神経栄養因子(CNTF)はニワトリの毛様神経節細胞から分離された神経栄養因子であり、これまで13種類の原因遺伝子の異なる網膜変性モデル動物でその効果が確認されている。2004年から米国で臨床試験が行われ、網膜色素変性患者を対象として、遺伝子操作によりCNTFを安定かつ持続的に産生する細胞を特殊なカプセルに封入し、経強膜的に眼内に6か月間埋植し、10例中3例で視力の改善が確認された。第2相臨床試験では、網膜色素変性の初期、晩期の病期の患者ごとに、それぞれCNTF低用量群と高用量群のグループに分けてカプセルを眼内に12か月間埋植し、視力および網膜感度を評価した。12か月の時点で、低用量群では網膜感度の低下を認めなかったが、高用量群では網膜感度の低下を認めた。しかし、カプセルを除去した後は、網膜感度の低下はみられなくなった。第2相臨床試験の結果では、CNTF治療を受けた眼では視力および錐体細胞密度の維持がみられ、現在、第3相臨床試験が進行中である。
色素上皮由来因子(PEDF)は網膜色素上皮から産生される神経栄養因子のひとつであり、網膜変性モデル動物や光傷害モデル動物などにおいて神経保護効果が証明されている。このPEDF遺伝子をレンチウイルスベクターに組み込んで網膜下に投与する臨床試験が九州大学で進行中である。
ニルバジピンはカルシウム拮抗薬であり、主に内科領域で高血圧症の治療に用いられている。アポトーシスの初期段階には細胞内のカルシウム濃度が高まり、その結果としてアポトーシスが引き起こされる。ニルバジピンは、細胞内のカルシウム濃度を抑えることにより視細胞保護を示し、網膜変性モデルマウスにおいて進行を抑制する報告がされている。
ドナリエラÒは、9-シス‐レチナールの前駆体である9-シス‐β-カロチンを含有するサプリメントの一種である。経口摂取により体内に取り込まれると肝臓で9-シス‐レチナールになり、レチノイドサイクルに作用する。RP患者を対象として、ドナリエラÒの3か月間の摂取により、視力、網膜感度、ERGの有意な改善が報告されたが、我が国で行った臨床試験では効果はみられなかった。
現在、RPに対する薬物治療の研究は世界各国で進行しており、その有効性が証明され、臨床の現場で用いられる日もそう遠くない。

山本 修一( Shuichi Yamamoto )
1983年 千葉大学医学部 卒業
1991年 米国コロンビア大学眼研究所 研究員
1994年 富山医科薬科大学眼科 助教授
2001年 東邦大学佐倉病院眼科 教授
2003年 千葉大学大学院医学研究院眼科学 教授
2014年 千葉大学病院 病院長
現在に至る

 

講演要旨
iPS細胞を用いた網膜の再生医療
理化学研究所 発生再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究プロジェクト 副プロジェクトリーダー  万代 道子

昨年我々はiPS由来網膜色素上皮細胞を用いて加齢黄斑変性に対する臨床試験第一例目を実施しました。現在までの経過は良好ですが、この一例を通して実施にいたるまで、学ぶことも多く、その経験をお話ししたいと思います。また、網膜色素上皮の移植に関しては今後の方向性や課題についてもお話しします。
一方で、私たちは、次の課題として、網膜変性疾患、最初は網膜色素変性に対する視細胞の移植治療というプロジェクトにも取り組んでいます。網膜色素変性では視細胞が選択的に徐々に失われますが、現在まだ確立した治療法はないものの、進行を遅くするための保護因子の投与や、遺伝子治療、末期においては人工網膜、視物質やチャネル関連因子の導入や投与による残存細胞での光応答性の回復といった新しい治療開発に対する研究が国内外で進められています。
その中で、視細胞の移植に関しては近年突破口となるような報告が相次いで、期待も大きくなっています。2006年に、イギリスのグループは、生後3−7日の若い視細胞をマウス成体網膜に移植すると、形態的に非常にきれいに生着する事を示し、2012年には同じグループが、視細胞の構造は保たれているけれども桿体細胞は機能していないようなモデルマウスに桿体細胞を移植し、暗所での視機能が獲得できる事を示しました。さらに、同じく2012年、日本の研究者が、マウスES細胞から立体的に網膜組織を分化誘導できる事を報告し、続いて中野らは、ヒトのES細胞からも同様の組織を分化できる事が示されました。これらの培養方法を使うと、胎生期、生後の任意の発生段階の網膜組織を十分量、移植用に用意することができるようになり、視細胞の移植治療が現実的なものとなりました。
臨床での最初の移植治療の適応を考えると、光のわからないような末期症例での光の回復、あるいは真ん中だけ視野の残った人の、そのまわりの視細胞の失われた部分への移植による視野の改善、といったことになると思われます。このような適応では、これまでマウスで報告されたような「視細胞構造の保たれた網膜」への移植ではなく、変性の進行した、視細胞のほとんど残存していない網膜、が対象となります。このような視細胞層の失われた末期変性網膜に対して、視細胞をばらばらの状態で移植してもなかなか構造的な成熟が得られなかったり長期の生着が得られなかったりしたことから、私達は、立体分化培養で得られた網膜組織の移植を試みました。ES/iPS細胞から分化した網膜は再現よく網膜組織に分化し、移植後、末期変性網膜下でも構造を保ちながら成熟し、視細胞層を形成しながら、非常に高度な分化状態であることを示唆する内節/外節の構造まで形成することを観察しました。また、外節構造やグラフト内のシナプスは電子顕微鏡観察においても、生体内で発生してくる網膜とほぼ遜色ない性質をもつことが示唆されました。

更に、胎生17日令相当より若い分化段階の網膜分化組織を移植すると、より本来の網膜に近い構造で視細胞の生着が観察され、一部で視細胞がホストの従来のシナプス形成相手である双極細胞とシナプスを形成していることを示唆する所見も得られました。これらの移植片は移植後光への反応も示し、現在そのシグナルがホストに伝わっているかどうかを電気生理や行動解析によって調べています。

ヒトES細胞やiPS細胞からも同様に網膜様組織を立体的に分化誘導できることが分かってきました。これらを免疫不全動物の網膜下に移植すると、マウスの分化組織と同じように、視細胞の層構造を形成しながら分化成熟する事も確認しています。さらに臨床応用を念頭に、霊長類でのモデルも作成し、移植後移植片が成熟、生着することも確認しました。今後、さらに詳細に移植後の視機能について評価を進めるとともに、より効果的な機能につながるような移植条件について検討していく予定です。

万代 道子( Michiko Mandai )
1988年 京都大学卒業
1994年 京都大学医学部大学院博士課程修了
1994年 京都大学眼科学教室 助手
2000年 米国NIH研究所 留学
2002年 京都大学病院探索医療センター 助手
2006年 理化学研究所 発生再生科学総合研究センター 研究員
2013年 理化学研究所 発生再生科学総合研究センター
網膜再生医療研究プロジェクト 副プロジェクトリーダー
現在に至る

 

講演要旨
人工網膜の現状
大阪大学大学院医学系研究科  不二門 尚

人工網膜は、視細胞が失われた網膜を、電気で刺激して、視覚を回復させる方法です。具体的にはCCDカメラを使って得られた画像をコンピューターで処理し、網膜を電極で刺激して、人工的な光を認識できるようにします。私達の方法は、脈絡膜上経網膜電気刺激方式(Suprachoroidal Transretinal Stimulation STS方式)と名前がついていますが、電極を強膜内に置く独自の方法を採っています。これは電極の固定がとても良く、安全性と安定性の面でもリスクを軽減できるというのが大きなメリットであり、実現性も高い方式だと考えています。また今後期待の大きい再生医療に関しても、STS人工網膜は網膜に接触しないので、人工網膜を埋めてからでも行えるのがメリットです。当面は、網膜色素変性で視野障害1級の人を対象としますが、次世代機では2級で視野の残っている人にも対象を広げていきたいと思っています。STS人工網膜は、年齢は40歳から75歳で、コンタクトレンズ型電極に1.5ミリアンペア―以下の電流をながして、光を感じる人に適合されます。アメリカ、ドイツは一歩進んでいてオーストラリアが日本に迫ってきています。先行グループは「安定性」や「安全性」が必ずしも十分ではなく、日本発のSTS法もこれから十分キャッチアップできると考えています。電極は49極なので、分解能はあまり高くありませんが、STS法は複数枚の電極板を入れることが可能なので、視野を拡大して歩行を助けるのに役立てる可能性があります。再生医療との棲み分けですが、人工網膜は電流で離れたところから網膜の神経を刺激できるので、失明して10年経過して、網膜が瘢痕組織に覆われていても光を回復できますが、再生医療は現状では瘢痕組織が生じていない、失明してあまり時間が経っていない患者さんが対象になると思われます。我々のグループは49極のSTS人工網膜の慢性臨床研究(1年)を行っているところです。1例目の患者さんは、電気で刺激しているうちに、人工網膜の電源を入れなくても見え方が良くなりました。3例目の患者さんは、人工網膜を使うと、物がある場所がはっきり分かり、つまみを回して、コントラストを調節すると、区別するのが難しかった、ご飯とカレーのルーを区別することができるようになりました。このように、人工網膜は、実用化に向けて「リハビリテーション」が重要な段階に来ています。患者さんの意見を取り入れて、コンピューターシステムを進化させ、それに応じてリハビリテーションのプログラムを開発することが、人工網膜を日常生活に役立つようにするためには必須のことになっています。患者さんは共同研究者です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

不二門 尚( Takashi Fujikado )
1982年 大阪大学医学部卒
1992年 大阪大学医学部眼科 助手
1996年 大阪大学医学部眼科 講師
1998 年 大阪大学医学部・器官機能形成学教授(眼科兼担)
2001 年 大阪大学大学院医学系研究科・感覚機能形成学教授(眼科兼担)
2001年より人工網膜の開発をNIDEK社と共同で行っている。

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第11回JRPS網脈絡膜変性フォーラム報告

(日本眼科学会専門医認定事業)

日 時:2016年10月2日(日)13:00 ~ 15:00
会 場:伊勢市観光文化会館(三重県伊勢市岩淵1丁目13-15)
主 催:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
後 援:厚生労働省 三重県 伊勢市
公益社団法人 日本眼科医会 愛知県眼科医会
富山県眼科医会 福井県眼科医会 三重県眼科医会
社会福祉法人 三重県社会福祉協議会 社会福祉法人 伊勢市社会福祉協議会
社会福祉法人 三重県視覚障害者協会 三重県ボランティア連絡協議会
社会福祉法人 中日新聞社会事業団
NHK津放送局 三重テレビ放送 三重エフエム放送 株式会社中日新聞社
伊勢ロータリークラブ 伊勢ライオンズクラブ
オーガナイザー:山本 修一(千葉大学) 近藤 峰生(三重大学)
事務局:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
〒140-0013 東京都品川区南大井2-7-9 アミューズKビル4F

【プログラム】
(1)開会
(2) 講演

13:00~
網膜色素変性の遺伝子異常と遺伝子解析について
林 孝彰(東京慈恵会医科大学)

13:30~
網膜色素変性の治療の歴史 ―神経栄養因子と遺伝子治療を中心に―
町田 繁樹(獨協医科大学)

14:00~
人工網膜の実用化に向けての現状
不二門 尚(大阪大学)

14:30~
再生医療とロービジョンケア
平見 恭彦(先端医療センター)

(3)閉会

講演要旨
網膜色素変性の遺伝子異常と遺伝子解析について
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 眼科  林 孝彰

近年、網膜色素変性の病態解明・治療に関する研究が進んできており、様々なことが判明している。まず治療へのアプローチとして、神経保護、遺伝子治療、再生医療、人工網膜などが考えられ実際に施行されている。この中で遺伝子治療へのアプローチとしては、大きく以下の2つに分かれる。
①アポトーシスや酸化ストレスによる視細胞変性には共通のプロセスがあり、これを予防するための原因遺伝子非依存的治療
②アデノ随伴ウィルス(AAV2)ベクターを用いた遺伝子補充療法で原因遺伝子依存的治療
現在の遺伝子治療としては、後者の遺伝子補充療法が主流となっている。このことから網膜色素変性やその類縁疾患に対する原因遺伝子の特定は、重要かつ有意義な研究であることが理解できる。このように、遺伝子補充療法は、常染色体劣性遺伝もしくはX連鎖劣性遺伝形式をとり、原因遺伝子が特定されていることが前提条件の治療であるため、個々の患者さんの原因遺伝子が同定される必要がある。なかなか普及しにくい要素を含んでいるが、下記の疾患ではすでに論文として報告されている。
①レーバー先天盲(常染色体劣性) RPE65遺伝子補充療法 (NEJM2008, NEJM2008, NEJM2015, NEJM2015)
②コロイデレミア(X連鎖遺伝) CHM遺伝子補充療法(Lancet2014, NEJM2016)
③常染色体劣性網膜色素変性 MERTK遺伝子補充療法(Hum Genet2016)
しかしながら現状として、遺伝子解析により原因を特定することは必ずしも容易でない。その理由として、原因遺伝子が多岐にわたるためである。2016年5月現在、網膜色素変性の各遺伝形式での原因遺伝子数は、常染色体優性遺伝で22遺伝子、常染色体劣性伝で36遺伝子、X連鎖劣性遺伝で2遺伝子となっており、合計60遺伝子が特定されている。従来の1つ1つの遺伝子を調べていく方法(Sanger法)では限界がある。そこで、現在では以下の4つの方法で解析されることが多い。
①例えば疾患別に50遺伝子のエクソン領域を予め解析できるプライマーペアを準備し、次世代シークエンサを用い一度に増幅・塩基配列を解析する方法(targeted resequencing)
②罹患者の両親が近親婚である場合、遺伝子変異をホモ接合で有することを予測し、マイクロアレイでホモ接合の領域を特定し、隣接する原因遺伝子を特定する方法(homozygosity mapping)
③次世代シークエンサを用い、すべての遺伝子のエクソン領域を増幅し、一度に塩基配列を決定し、データベースとの比較解析を行い、候補遺伝子異常にアプローチする方法(whole-exome sequencing)
④大きな欠失や重複など(genomic rearrangement)が予測される際に、特定の遺伝子に対する欠損部・増幅部をPCRとハイブリダイゼーション法で特定する方法(multiplex ligation-dependent probe amplification)
このなかで最近特に頻用されているのは①と③であろう。京都大学眼科・大石先生らの研究では、①の方法で解析した網膜色素変性患者の36.3%(115/317)で原因遺伝子が検出されたと報告している。多くの候補遺伝子を網羅的に解析しても60%以上で原因が見つからないことを意味しており、まだまだ研究道半ばといえる。また、最近では、患者さんから採取・抽出したDNAがあれば③は外注することも可能な時代になっている。このことからもインフォームドコンセント後に患者さんから戴いたDNAサンプルは私たち眼科医にとっては宝物なのである。
慈恵医大ではこれまで、患者さんとその家族を含め1000人以上の方からDNAを抽出してきました。本講演では、実際に患者さんとその両親から得られたDNAサンプルをもとに従来法だけでなく、③のwhole-exome sequencingや④の multiplex ligation-dependent probe amplification法で捉えた遺伝子解析結果と患者さんの臨床像について紹介したい。遺伝子解析研究は、多くの患者さんの協力なくしては円滑に進みません。今後も引き続き患者さんの協力を得ながら研究を続けたいと思います。

林 孝彰( Takaaki Hayashi )
1991年 東京慈恵会医科大学卒業
1998年 東京慈恵会医科大学大学院修了(眼科学)
1998年 米国州立ワシントン大学留学
2001年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 助手
2003年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 講師
2016年 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 眼科准教授
現在に至る

 

講演要旨
網膜色素変性の治療の歴史 ―神経栄養因子と遺伝子治療を中心に―
獨協医科大学越谷病院 眼科  町田 繁樹

網膜色素変性(RP)は先天性・進行性の不治の病と考えられてきた。しかし、動物実験レベルでは多くの治療成果が報告され、その一部は臨床症例に応用されている。今回は、その中でも神経栄養因子と遺伝子治療にフォーカスを絞り、今までの成果をreviewしてみる。

1.神経栄養因子
1990年にLaVailの研究グループが、遺伝性網膜変性モデルであるRCS(Royal College of Surgeons)ラットの硝子体内にbFGFを注入し、視細胞変性が抑制されたことを報告した。この論文はNatureに掲載され、いかに反響が大きかったかが伺える。それから四半世紀以上が過ぎて、動物実験から臨床試験へと時代は移り変わっている。
1) 動物実験での成果:bFGF以外の神経栄養因子にも同様の視細胞保護効果があることが判明した。その中で、CNTFが小動物からイヌなどの大動物の多くの遺伝性網膜変性モデルで効果を発揮し、安全で優れた神経栄養因子として注目された。しかし、神経栄養因子の効果は両刃の刃的な予想もできなかった副作用がつきまとうことが明らかとなってきた。安全と考えられていたCNTFでさえもロドプシンの発現を抑制し、視細胞を保護してもその機能を可逆的低下させることが報告された。
2) 動物モデルから臨床応用へ:動物実験で神経栄養因子の投与法はワンショットあるいは網膜色素上皮に遺伝子導入し持続的発現させたが、それぞれに欠点があった。ワンショットでは慢性・進行性のRPには対応できない。また、副作用の可能性を秘めた神経栄養因子を恒常的に発現させた場合は副作用が心配された。これらの問題を解決したのがEncapsulated cell-based technology (ECT)であ る。Sievingら(2006)はCNTFの遺伝子を導入し持続的にCNTFを産生する網膜色素上皮細胞を特殊なカプセルに入れて、RP症例の硝子体内に移植している。このカプセルは半透膜で覆われており、CNTFは硝子体内に放出されるが、免疫細胞がカプセル内に侵入することはない。数年間にわたって、一定濃度のCNTFを硝子体内に徐放することができる。持続的な投与もできるし、副作用が出た場合は抜去もできる。安全性が確認された後に、多施設臨床試験が行われた。
3) 臨床試験:残念ながら、視力および網膜感度は、ECT移植後24ヵ月で対象に比較して変化がなかった。高濃度CNTFを徐放するECTでは、網膜感度がむしろ低下したが、この変化は可逆性であった。しかし、期待できる結果もあった。治療群では外顆粒層が無治療眼に比較して有意に厚く、錐体細胞の減少が抑制された。

2.遺伝子治療
1) 動物モデルから臨床応用へ:RPE65の遺伝子異常で発症するLeber先天黒内症(LCA)が、眼科領域では初めての遺伝子治療の対象疾患となった。LCAは若年発症で予後不良のRPの一つである。この遺伝子変異が最初に選ばれ背景にはイヌのLCAモデルの存在が大きい。RPE65の遺伝子を搭載したアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターをイヌのLCAの網膜下に注入した。その結果、RPE65が網膜色素上皮に発現し、網膜機能が長期間にわたり著しく改善した。
2) 臨床試験:2008年にこの成果に基づいて6人のLCA患者に遺伝子治療が行われた。硝子体手術後に視力、眼振、対光反射、微小視野などの変化から、半数例以上で効果が得られている。変性が進行した症例を選択していたことから、早期例を対象とすれば更なる効果が期待されより多くの患者が対象となり遺伝子治療は続けられている。その結果、1)長期の視機能の改善が得られる。2)治療部位に新たな固視点ができる(pseudofoveaの形成)。3)中心窩機能の改善はない。4)治療後もロドプシンの再生が遅延する。5)治療で視細胞変性は抑制できない。等のあらたな事実が判明した。

このような先人たちの研究を振り返りながら、今後のRPの治療の展望を議論してみたい。

町田 繁樹( Shigeki Machida )
1989年3月 岩手医科大学医学部卒業
1994年3月 岩手医科大学医学部大学院卒業 学位取得
1994年4月 岩手医科大学眼科学教室 助手
1997年4月 岩手医科大学眼科学教室 講師
1998年9月 ミシガン大学 Kellogg Eye Center, Research fellow
2005年8月 岩手医科大学眼科学教室 助教授(准教授)
2014年4月 獨協医科大学越谷病院眼科 学内教授
2015年4月 獨協医科大学越谷病院眼科 教授
現在に至る

 

講演要旨
人工網膜の実用化に向けての現状
大阪大学大学院医学系研究科    不二門 尚

人工網膜は、視細胞が失われた網膜で、残った内層の神経を電気で刺激して、視覚を回復させる方法です。CCDカメラを使って得られた画像をコンピューターで処理し、電極の数に相当する画素の信号に変えて、電気刺激し、人工的な光が見えるようにします。
私達の方法は、脈絡膜上経網膜電気刺激方式(Suprachoroidal Transretinal Stimulation STS方式)と名前がついていますが、電極を強膜内に置く独自の方法を採っています。これは電極の固定がとても良く、安全性と安定性の面でもリスクを軽減できるというのが大きなメリットであり、実現性も高い方式だと考えています。電気で刺激することにより、残った網膜の神経が元気になる、網膜賦活効果も期待できます。
また皆さんが希望している再生医療に関しても、ST型人工網膜は網膜に接触しないので、人工網膜を埋めてからでも行えるのがメリットです。現在は、網膜色素変性で視野障害1級の人を対象としますが、次世代機では2級で視野の残っている人にも対象を広げていきたいと思っています。
STS人工網膜は、コンタクトレンズ型電極に1.5ミリアンペア―以下の電流をながして、光を感じる人に適合されます。アメリカ、ドイツは一歩進んでいてオーストラリアが日本に迫ってきています。先行グループは「安定性」や「安全性」が必ずしも十分ではなく、日本発のSTS法もこれから十分キャッチアップできると考えています。電極は49極なので、分解能はあまり高くありませんが、STS法は複数枚の電極板を入れることが可能なので、視野を拡大して歩行を助けるのに役立てる可能性があります。
再生医療との棲み分けですが、人工網膜は電流で離れたところから網膜の神経を刺激できるので、失明して10年経過して、網膜が瘢痕組織に覆われていても光を回復できますが、再生医療は現状では瘢痕組織が生じていない、失明してあまり時間が経っていない患者さんが当面の対象になると思われます。
我々のグループは49極のSTS人工網膜の慢性臨床研究(1年)を終了し、結果をまとめているところです。1例目の患者さんは、電気で刺激しているうちに、人工網膜の電源を入れなくても見え方が良くなりました。3例目の患者さんは、人工網膜を使うと、物がある場所がはっきり分かり、つまみを回して、コントラストを調節すると、区別するのが難しかった、洗濯物を区別して畳むことができるようになりました。米国で商品化された人工網膜Argus IIは世界で150例以上の患者さんが埋め込み手術を受けています。限 局した光(キャンドルの光など)が分かるようになったり、人影が分かるようになったことでHAPPYになる人も多いようですが、患者さんの期待が大きすぎると満足が得られないということです。
また人工視覚を役に立つ視力にするには「リハビリテーション」が重要です。患者さんの意見を取り入れて、コンピューターシステムを進化させ、それに応じてリハビリテーションのプログラムを開発することが、人工網膜を日常生活に役立つようにするためには必須のことになっています。患者さんは共同研究者です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

※参考:人工臓器41巻3号 2012年

不二門 尚( Takashi Fujikado )
1982年 大阪大学医学部卒業
1992年 大阪大学医学部眼科 助手
1996年 大阪大学医学部眼科 講師
1998 年 大阪大学医学部・器官機能形成学 教授(眼科兼担)
2001 年 大阪大学大学院医学系研究科・感覚機能形成学 教授(眼科兼担)
2001年より人工網膜の開発をNIDEK社と共同で行っている。
現在に至る

 

講演要旨
再生医療とロービジョンケア
先端医療センター眼科   平見 恭彦

再生医療とは、けがや病気で傷ついたり働きが失われたりした組織や臓器を、細胞培養や組織工学といった最新の技術を応用して作製した組織や臓器で補ったり、置き換えたりして修復する治療です。
網膜色素変性や黄斑変性といった網膜の病気では、網膜を構成する細胞の中でも、光刺激を受け取る視細胞や、その視細胞の維持の役割を持つ色素上皮細胞が失われることがその原因となっています。そのため、視細胞や色素上皮細胞を移植することにより視力を回復するということが考えられていましたが、これらの細胞は採取することも増殖させることも難しく、移植しても周囲の網膜の他の部分に上手くつながらないと視力を回復させることはできません。
そこで、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)といった「多能性幹細胞」と呼ばれる細胞が、移植する網膜細胞を作る材料として注目されるようになりました。多能性幹細胞とは、細胞の性質が変わることなく、限りなく増殖することができ(自己複製能)、一方で細胞の性質が変わることにより、体のさまざまな部分の組織や細胞に変化することができる(分化多能性)という2つの特徴的な性質を持っています。このことが、治療に必要な細胞を大量に準備するという再生医療の目的に適しており、その中でも、網膜の細胞が作製できることはES細胞の研究によって10年以上前からわかっていたことと、それに加えて、体の他の臓器と比べて少ない細胞の量で治療することができるということから、網膜は、多能性細胞による再生医療の実用化が早期に実現可能な候補と考えられていました。
理化学研究所と先端医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院の共同研究チームが、加齢黄斑変性の患者に患者自身のiPS細胞から作製した網膜の細胞(網膜色素上皮細胞)を移植する臨床研究を開始したのは2013年8月のことで、2014年9月に最初の移植手術を行いました。手術後1年を経過して、細胞そのものや手術に伴う重篤な合併症は認められず、治療を追加されない状態で視力は維持されており、現時点では1例ですが当初の目的である安全性の確認は達成されました。これは今後iPS細胞から作製した網膜の細胞を用いたさまざまな眼の疾患の治療開発を進めるための第一歩となると考えられます。
再生医療は確かに失われた機能を回復するという目標に向かって進みはじめていますが、一方で網膜の病気においては、まだ大きな効果が得られる治療にはなっていません。加齢黄斑変性に対する細胞の移植で期待される効果は視力の維持であり、網膜色素変性に対する視細胞の移植治療が可能になったとしても、まずは光覚の回復を確認することが当初の目標と考えられています。したがって、再生医療単独の治療で得られる視力や視野の回復は、実用化の当初には治療を待ち望んでいる人々の期待とはかけ離れたものでしょう。
そこで、我々はそうして得られたわずかな効果を活用し、実生活での利便性を最大限に上げるためのリハビリテーションが非常に重要であると感じています。それは、補装具の使用、パソコンや日常生活を便利にするグッズの活用であったり、近年ではタブレット端末の利用であったりするものや、歩行訓練、固視訓練といった、いわゆるロービジョンケアであり、さまざまな行動が「見えにくくてもできる」ようになることで社会復帰を促すことができます。そのためには病院と一体でロービジョンケアを提供できる施設があることが理想的と考えられました。
神戸アイセンターの計画は、網膜と視覚の再生医療に関する研究室と眼科病院、ロービジョンケアを提供するフロアを有する施設を神戸市のバックアップの下で建設し、これらを一体的に提供するという計画です。まだ具体的な内容を明らかにはできませんが、眼科医療と再生医療、ロービジョンケアをつなぐ役割を果たすことができる施設を目指しています。

平見 恭彦( Yasuhiko Hirami )
1999年 京都大学医学部卒業
2000年 倉敷中央病院眼科 医員
2007年 理化学研究所 リサーチアソシエイト
2008年 先端医療センター病院眼科 副医長
2013年 先端医療センター病院眼科 医長
現在に至る

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第12回JRPS網脈絡膜変性フォーラム報告

(日本眼科学会専門医認定事業)

日 時:2017年11月19日(日)9:50~12:30(開場9:00)
会 場:千里ライフサイエンスセンター 5階ライフホール
(大阪府豊中市新千里東町1-4-2)

講 演:網膜色素変性の治療の最前線
~基礎研究から臨床応用へ~

10:00~
網膜色素変性に対する視細胞保護治療(動画は「会員ページ」)
池田 康博(九州大学)

10:30~
網膜移植と再生医療(動画は「会員ページ」)
万代 道子 (理化学研究所)

11:00~
チャネルロドプシンを用いた視覚再生
冨田 浩史(岩手大学)

11:30~
遺伝性網膜疾患: 診断から治療へのアプローチ
藤波 芳(東京医療センター)

12:00~
人工網膜による視覚機能の再建 ~開発の現状と未来
森本 壮(大阪大学)

オーガナイザー:山本 修一(千葉大学) 町田 繁樹(獨協医科大学)

主 催:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
後 援:厚生労働省 大阪府 大阪市 公益社団法人 日本眼科医会 公益社団法人
ネクストビジョン 日本ロービジョン学会 一般社団法人 大阪府眼科医会 京都府眼科医会 兵庫県眼科医会 社会福祉法人 大阪府社会福祉協議会 社会福祉法人 大阪市社会
福祉協議会
一般財団法人 大阪府視覚障害者福祉協会 一般社団法人 大阪市視覚障害者福祉協会

事務局:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
〒140-0013 東京都品川区南大井2-7-9 アミューズKビル4F

講演要旨
網膜色素変性に対する視細胞保護治療
九州大学眼科  池田 康博

網膜色素変性(RP)とは、暗いところで見えにくい夜盲という症状で始まり、視野が少しずつ狭くなり、最終的には視力が低下してしまう遺伝性の網膜の病気です。目に関連する遺伝子のキズが原因で、網膜の神経細胞(視細胞)が少しずつ傷害を受けていきます。外界情報の約80%を得るために必要なこの視力を失うことで、我々のQOL(生活の質)は著しく低下し、社会活動は大幅に制限されることになります。現時点で有効な治療法が確立されていない難病で、早期の治療法開発が望まれています。
その近未来の治療法として期待されているもののひとつが、遺伝子治療です。欧米では、レーバー先天盲やコロイデレミアといったRPによく似た遺伝性の網膜の病気に対して治験が実施され、一定の安全性と治療効果がすでに明らかとなっています。遺伝子治療が標準治療の一つとして認められる日が近づいてきていると言えます。レーバー先天盲やコロイデレミアの場合、病気の原因となっている遺伝子のキズを治す(正常な遺伝子を補充する)という、遺伝子治療における理想的なアプローチが選択されていますが、RPの場合は遺伝子のキズが多岐にわたる(70種類以上)ため、現実的にはすべてのRPの患者さんにこのアプローチを適応するのは難しいと考えられています。
そこで我々が注目したのが、視細胞保護遺伝子治療です。RPでは遺伝子のキズにより最終的に視細胞の細胞死が生じますが、神経細胞に対し保護作用を有する神経栄養因子と呼ばれるタンパク質を作り出す遺伝子を目に打ち込むことによって、その神経栄養因子が目の中でたくさん作られ、視細胞が護られて視力が低下するのを防ぐという方法です。今回、神経栄養因子として色素上皮由来因子(PEDF)を選択し、これまでに複数のRPの動物モデルにおいてその治療効果を確認しました。さらに大型動物であるカニクイザルを用いた安全性試験により、この治療法の安全性を確認しました。これらの効能試験ならびに安全性試験の結果に基づき、臨床研究実施計画を立案し、平成24年8月に厚生労働大臣より了承されました。本臨床研究の主な目的は、SIVベクターの眼内投与の安全性を確認することで、平成25年3月26日に第1症例への投与を実施し、これまでに5名の被験者に臨床研究薬の投与を完了しました。現時点で臨床研究を中止しなくてはならないような重篤な合併症はありません。また、この臨床研究と並行して、次のステップとなる医師主導治験の準備を進めています。
本講演では、遺伝子治療臨床研究の結果を中心に、RPに対する視細胞保護遺伝子治療の可能性についてご紹介させていただく予定ですが、さらに、広い意味でのRPに対する視細胞保護治療の可能性についても併せて紹介したいと思います。

池田 康博( Yasuhiro Ikeda )
1995年 九州大学医学部 卒業
1995年 九州大学医学部眼科 入局
2003年 九州大学大学院医学系研究科博士課程 修了
2004年 九州大学病院眼科 助手(現・助教)
2015年 九州大学病院眼科 講師
2016年 九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座 准教授
現在に至る

 

講演要旨
網膜細胞移植と再生医療
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト  万代 道子

現在私たちは、iPS細胞を用いて加齢黄斑変性に対する網膜色素上皮細胞の移植プロジェクト、そして網膜色素変性に対する網膜組織移植プロジェクトに取り組んでいます。
加齢黄斑変性についてはすでに最初の自家iPS由来の網膜色素上皮移植からほぼ3年経過し、特に合併症はみられることなく移植片が安定して生着していることを確認しています。この結果をうけて、網膜色素変性に対するiPS細胞由来網膜組織の移植治療についても臨床研究を視野に研究を進めているところです。
私たちは今年初め、マウスのiPS細胞由来の網膜組織を末期網膜変性モデルに移植すると、移植した視細胞とホストの2次神経細胞がつながり、光シグナルをホストの神経節細胞に伝えること、行動実験においても移植後のマウスで光合図による学習効果がみられるようになることを報告しました。同じような網膜組織はヒトのES細胞やiPS細胞からも用意でき、また移植後末期の変性網膜に生着して成熟することを動物モデルで観察しています。さらに現在は、これらのヒトのESやiPS細胞でも移植後成熟して光に応答することを検証中です。今後、安全性試験などを重ねて、ヒトでの臨床応用を目指して準備を進めていく予定です。
人でも動物で得られたような効果がみられるかは臨床研究をしてみないとわかりませんし、うまくいっても最初はうっすら小さく光がわかる、といった程度の効果しか得られないかもしれません。しかし少しでも光がわかるとなれば、よりその効率をよくしていくこともできるのではないか、とも思っています。
最初の臨床研究は最初の一歩にすぎませんが、現在の進捗と今後の見通しなど紹介したいと思います。

万代 道子( Michiko Mandai )
1988年 京都大学医学部 卒業
1988年 京大病院眼科研修医
1989年 関西電力病院眼科
1990年 京都大学医学部大学院博士課程
1994年 京都大学眼科学教室 助手
2000年 米国NIH 研究所 客員研究員
2002年 京都大学病院探索医療センター 助手
2006年 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究チーム研究員
2006年 神戸市立医療センター中央市民病院 非常勤医師
2011年 先端医療センター病院 眼科副部長
2013年 理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト 副プロジェクトリーダー
現在に至る

 

講演要旨
チャネルロドプシンを用いた視覚再生研究
岩手大学理工学部生命コース   冨田 浩史

緑藻類クラミドモナスより同定されたチャネルロドプシン-2(ChR2)タンパク質は、光受容に伴い細胞内に陽イオンを透過させる、光活性化陽イオン選択的チャネルとして機能する。神経細胞の興奮は細胞内への陽イオンの流入によって引き起こされるため、神経細胞にChR2を発現させることで、光照射によって興奮を誘起する光感受性神経細胞となる。我々は2005年から、この特徴的な機能を持つChR2の眼科分野への応用に取り組んできている。
網膜色素変性症では、視細胞が焼失し失明に至った場合でも、視細胞以外の神経細胞は残存していることが報告されている。残存する神経細胞、その中でも特に、視神経を構成する神経節細胞は、元来、視覚情報を脳に伝達する役割を担っており、この神経節細胞にChR2を発現させることで、神経節細胞が直接、光を受容し、脳に視覚情報を伝達できると考えられる。我々は、ChR2遺伝子を網膜神経節細胞に運ぶウイルスベクターとして、アデノ随伴ウイルスベクター2型(AAV)を選択し、遺伝的に視細胞変性をきたす(遺伝盲)ラットを用いて、視機能の回復を検証してきた。その結果、1回の遺伝子導入で約30万個の細胞にChR2タンパク質が発現し、ラットの生涯(約2年)を通じて回復した視機能が維持されること、ならびに重篤な副作用が見られないことが示されている。しかしながら、ChR2タンパク質が感じ取れる光は青色に限定されるため、ChR2を用いた遺伝子治療で視覚が回復できたとしても、青色しか見ることができない。この問題点に対して取り組み、2009年、同じ緑藻類のボルボックスから同定されたチャネルロドプシンを人為的に改変し、1つのタンパク質で青、緑、赤のほぼすべての色に応答する改変型チャネルロドプシン(mVChR1)の開発に成功している。mVChR1遺伝子導入によって、RCSラットの視機能回復が見られることならびに副作用が生じないことを確認し、臨床開発に必要な一部の前臨床試験を(独)医薬基盤研究所ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援により実施し終了している。
ChR2に関しては、ChR2の知財権を持つアメリカRetroSense社のサイエンティフィックアドバイザーとして臨床開発に協力し、2016年2月に、アメリカで臨床試験が始まっている。また、我々が独自に開発したmVChR1は、2016年2月よりアステラス製薬により臨床開発が進められている。
今回、これらのチャネルロドプシンによって得られる視覚特性を中心に、現在までの研究経過を報告する。

冨田 浩史( Hiroshi Tomita )
1990年 京都府立大学農学部 卒業
1992年 京都府立大学大学院農学研究科修士課程 修了 農学修士
1993年 東北大学医学部眼科学講座研究生(出向)
1998年 東北大学大学院医学系研究科眼科学講座 助手
2002年 長寿科学振興財団海外派遣研究員
(アメリカ合衆国オクラホマ大学眼科学講座)
2004年 東北大学先進医工学研究機構 助教授
(生命機能科学分野 人工網膜研究チーム チームリーダー)
2008年 東北大学国際高等融合領域研究所医歯薬融合領域 准教授
2012年 岩手大学理工学部生命コース 教授
(兼務)
東北大学 大学病院臨床研究推進センター 客員教授
RetroSence, LLC(U.S)(2008/1-2016/12)
現在に至る

 

講演要旨
遺伝性網膜疾患:診断から治療へのアプローチ
国立病院機構東京医療センター 眼科  藤波 芳

遺伝性網膜疾患に関する診断から治療へのアプローチは近年劇的な変化を遂げている。標準とされる4行程(1.クリニックにおける臨床検査・診断、2.遺伝子検査・診断、3.臨床診断と遺伝子診断の相関確立ならびに最終確定診断、4.臨床治験導入)を経る形で、遺伝性網膜疾患に対する診断から治験導入が行われている。特に、この数年における遺伝医学分野における技術革新、情報共有・統合化の加速に伴い、欧米を中心に臨床治験導入が拡大し、世界的に見ると、千名以上の遺伝性網膜疾患患者が遺伝子置換治療、遺伝子導入治療、薬物治療、再生細胞治療、人工網膜などの先鋭的臨床治験に参加している。
本講演では「治療が皆無であった」時代から、「治療を選択する」時代へ大きな変容を遂げつつある遺伝性網膜疾患分野における現在の取り組みについて、最新の情報を含めて紹介される。

1.臨床診断
遺伝性網膜疾患は希少疾患に分類される。網膜色素変性症という臨床病名の患者群の中にも原因となる(もしくは関連する)遺伝子は数十以上存在するため、単独施設における原因遺伝子ごとの臨床情報は極限られたものとなり、診断に苦慮することも少なくない。この状況を受けて、国内・国外で同一の臨床検査を基にデータ共有し、共同で臨床診断を行う、多施設共同研究が遂行されている。一例としてJapan Eye Genetics Consortium(JEGC)が挙げられる。JEGCは2006年に東京医療センター・臨床研究センター(NISO)を中心に設立され、日本臨床視覚電気生理学会の後援を受ける形で2017年8月現在までに国内23施設から約1600症例以上の情報共有がオンラインデータベースを利用して行われている。さらに、アジアの代表として、アジア域内(12ヵ国約50施設)での情報共有、その他の4大陸との連携(欧州、北米、豪州、南米)が強力に推進されている。

2.包括的遺伝子検査・診断
2010年代に入り、次世代シークエンスの標準化に伴い、250を超える網膜疾患関連遺伝子を同時に検索する手法が導入され、その他の手法では実現が難しかった包括的な遺伝子検査が可能となった。さらに、日本人特有の遺伝背景を数千単位の正常人データから割り出すことで、欧米からの過去の報告を基準とした形では診断が困難であった症例についても、日本人の特性を大規模コホート内で理解した上での遺伝子診断が実現化し、より精度の高い診断が現実のものとなっている。

3.臨床診断と遺伝子診断の相関確立と最終確定診断
数千単位の症例の、臨床・遺伝情報の共有化の実現により、網膜関連遺伝子それぞれについての臨床像が明らかとなり、「網膜色素変性症」と漠然と呼ばれてきた病名の中にも、様々な小分類が存在することが解ってきた。これらの分類診断は、原因遺伝子・病態を基に行われており、小分類間で、発症、重症度、進行性、遺伝様式が異なるため、この臨床診断・遺伝子診断を繋ぎ合わせた病態に基づく最終確定診断が患者カウンセリング、治療導入に必須の工程となっている。特に、日本人における臨床診断と遺伝子診断の関連においては、過去、包括的遺伝子解析を用いた大規模研究による調査が存在しなかったが、2010年代後半に入り日本人特有の疾患分類や病状が次々と明らかとなり、原因に即した形、病態に即した形で、それぞれの疾患の再整理が急務となっている。

4.治療導入
臨床診断、遺伝子診断から最終確定診断が得られた後、原因遺伝子、病状、病期(therapeutic
windows)を加味して、治験導入が考案される形が一般的となりつつある。国内・国外を含めて、様々な施設で、様々な手法で治療導入が行われる中で、治療適応疾患、その原因遺伝子、病期などの情報を共有する体制づくりが精力的に進められており、遺伝性網膜疾患治験情報ウエブサイト、症例情報共有オンラインデータベース、患者レジストリなどを通して、個々人に適した治療を選択する時代が日本に到来する日が間近に迫っている。

藤波 芳( Kaoru Fujinami )
2004年名古屋大学医学部医学科 卒業
2004年 名古第一赤十字病院 前期臨床研修
2006年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 眼科後期臨床研修医 臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室 研究 員
2009年 英国Moorfields Eye Hospital、Electrophysiology、Fellow 英国UCLInstitute of Ophthalmology、Genetics、Research Assistant
2013年 独立行政法 人国立病院機構 東京医療センター 眼科 慶應義塾大学大学院博士課程眼科学専攻 網膜細胞生物学グループ
2016年 英国UCL Institute of Ophthalmology、Genetics、Research Associate英国Moorfields Eye Hospital、Division of Inherited Eye Disease、Honorary Clinical Manager 、慶應義塾大学眼科学講座 非常勤講師
2017年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センター・臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室 室長英国UCL Institute of Ophthalmology、Genetics、Senior Research Associate

 

講演要旨
人工網膜による視覚機能の再建 -開発の現状と未来
大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学  森本 壮

人工網膜は、網膜色素変性などで視細胞を失った網膜に対し、視細胞の代わりに残った網膜の内層の神経細胞に対し、電気刺激を行い、点状の光を感じさせることによって視覚を回復させる方法です。
具体的には、まず電気刺激を行うための電極を何十極も載せた電極板と体内刺激装置を患者さんに埋植します。次にCCDカメラがついた眼鏡をかけ、CCDカメラの画像を携帯型のコンピュータで処理し、その情報を、電波を使って体内刺激装置に伝え、体内刺激装置はその情報に従って多点電極を通して網膜に対して電気刺激を行います。
現在、人工網膜は3つのタイプの研究開発が進んでいます。一つ目は網膜上刺激型人工網膜で電極を網膜の上に置く方法で、主に米国で開発された方式で、すでに米国やEUでは、認可されておりそれらの国で治療を受けることができます。二つ目は、網膜下刺激型人工網膜で、電極を網膜下に置く方法で、主にドイツで開発が進んでいる方式で、第一世代の開発と臨床試験は終了し、現在、第二世代の人工網膜の開発が進行しております。最後に、我々が開発した日本独自の方式である脈絡膜上経網膜電気刺激(STS)型人工網膜で、これは眼球の外側の強膜からトンネルを作製し、脈絡膜上に電極を設置する方法で、他の方式と異なり、網膜に直接電極を置かないので、網膜への組織損傷が少なく、電極の交換が容易で、将来、再生医療を患者さんが受ける場合にも併用が可能な方式です。

本講演では、我々がこれまでに行ってきたSTS型人工網膜装置の臨床試験の結果について述べ、他の方式の人工網膜装置の臨床試験の結果にも触れ、現時点での人工網膜でどこまで見ることができるかについて述べたい。また、現在開発中の第三世代の人工網膜の研究の状況や今後の人工網膜の展望について述べる予定である。

森本 壮( Takeshi Morimoto )
1997年 大阪大学医学部 卒業
1997年 大阪大学医学部眼科学教室入局
2001年 大阪大学大学院医学系研究科未来医療開発専攻 博士課程
2005年 医学博士(大阪大学)
2008年 大阪大学大学院医学系研究科眼科学 医員
2009年 大阪大学大学院医学系研究科寄付講座視覚情報制御学 助教
2010年 大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 講師
2012年 大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 准教授
現在に至る

 

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JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第15回JRPS網脈絡膜変性フォーラム 開催中止のお知らせ
(兵庫県・神戸チサンホテル:20200921)

第14回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(東京都・KFCホール:20190630)

第13回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(静岡県・浜松アクトシティコングレスセンター:20180923)

第12回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(大阪府・千里ライフサイエンスセンター:20171119)

第11回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(三重県・伊勢市観光文化会館:20161002)

第10回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(高知県高知市・高知プリンスホテル:20151101)

第9回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(東京都東京国際フォーラム:20140405)

第8回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第7回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第6回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第5回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第4回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第3回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第2回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第1回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

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第7回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第6回
岩手大学 冨田浩史先生に聞く ~遺伝子治療による視覚再生-臨床に向けた取り組み~
岩手大学理工学部化学・生命理工学科 視覚神経科学研究室の 冨田 浩史(とみた ひろし)先生は東北大学に在籍中から、緑藻単細胞生物であるクラミドモナスに発現しているチャネルロドプシン2という蛋白質に注目し、この遺伝子を使って視覚を再生する治療法の開発に取り組んでこられました。これを含め、光活性化チャネル遺伝子を使った治療法の臨床応用の見通しをうかがいました。

問:先生は長年チャネルロドプシン2の遺伝子治療を目指して努力されてきました。いよいよ臨床試験が始まっているとうかがいました。
答:チャネルロドプシン2を使った遺伝子治療の実現のため、2006年4月に特許の出願をしましたが、その半年前にアメリカのレトロセンス社が出願しておりそちらが認められました。そこでなるべく早くこの治療法を実現するため、それまでの研究結果を同社に提供し、共同して開発を進めてきました。レトロセンス社は2016年春、ダラスで臨床試験を開始、途中経過が近いうちに発表される予定です。同社はつい最近アメリカの目薬の大手であるアラガン社に買収され、今後はアラガン社が臨床試験を進めると聞いています。
問:チャネルロドプシン2は青い光しか感じないので、先生方はすべての色を感じるたんぱく質の遺伝子を作られました。そちらの臨床応用の見通しは?
答:クラミドモナスとは別の緑藻類であるボルボックスに発現しているタンパク質VChR1が赤い光を感じることに注目、この遺伝子を改変して青、緑、赤など可視光のすべてを感じるタンパク質、改変型VChR1の遺伝子を作りました。こちらは最近特許の取得に成功し、その後東北大学が作ったベンチャー企業クリノに譲渡しました。クリノはアステラス製薬とライセンス契約を結び、アステラス製薬が治験に向けて準備を進めています。私はレトロセンス社の顧問という立場上、アステラス製薬の研究開発には関与していません。
問:遺伝子治療の治験に進むには、どのようなことが求められますか?
答:遺伝子治療にはウイルスベクターが必要ですが、眼科領域ではこれまで例が少なく、決まったメニューが存在しません。そのため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら進めていく必要があります。治験までのプロセスはおおむね次のようになります。
①GMPに沿った施設でウイルス製剤を作製し、その品質のチェックを行ないます。たとえば、純度、夾雑物、細胞に対する感染効率などを調べます。何回か作って、ロットごとに品質をチェックし、いつでも同じ品質で製造できる薬剤であることを示します。
②GLP適合施設で前臨床試験の安全性試験を実施しなければなりません。試験項目は、遺伝毒性、安全性薬理、薬効薬理、薬物動態などです。対象動物も含め、PMDAと協議しながら実施します。ラットの安全性試験は終了し、カニクイザルでの試験が残っています。1回眼内注射で投与し3ヵ月間モニターします。
③前臨床試験の薬効・薬理試験についてはラットの縞視力の測定(いわゆる首ふり試験)と視覚誘発電位の測定を実施しました。試験はGLP施設で行なう必要はありませんが、すべてのデータをPMDAに提出しチェックを受ける必要があります。
問:しばらくは治験に直接関与されないとのことですが、現在、あるいは今後どのような研究をされるお考えですか?
答:ラットの首ふり実験の信頼性を高めるため、録画し、首ふり回数を機械的にカウントする方法を開発中です。また、遺伝子導入した網膜神経節細胞が光を受け、その刺激が脳でどのように認識され、どのように見えるかは未解明です。視覚心理学を専門とする先生との共同研究では、真っ白な部分はやや灰色に、真っ黒な部分も少し灰色になるものの、りんかくが強調された画像となるというようなシミュレーション結果が得られています。あくまでもシミュレーションであり、これを動物実験で今後明らかにしていきたいと考えています。また、長期的には、色覚を回復する研究、また網膜変性を遺伝子治療で保護する研究を進めたいと考えています。
問:最後に、全国のRP患者へ、ひと言メッセージをいただけますでしょうか。
答:2005年にこの研究に着手し、11年の歳月が過ぎました。何度も研究継続の危機がありましたが、JRPS主催の医療講演会にご招待いただき、多くの方々から力をいただきました。ありがとうございました。まだ、ゴールは少し先になりますが、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

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第1回研究推進委員会(Wings)通信

■研究推進委員会が発足
本年6月の社員総会で第2次中長期計画が承認されました。「研究推進」に関する計画については、常任理事会の下に「研究推進委員会」を設置、日常活動を担うことになりました。

委員は次の9名です:有松靖温(理事、東京)、森田三郎(理事、京都)、奥村俊通(理事、岡山)、大坂文乃(兵庫)、加納猛彦(岐阜)、小林一男(群馬)、島袋勝弥(山口)、土井健太郎(東京)、堀口浩幸(神奈川)
なお、本委員会は昨年度までの中長期計画推進委員会(Wings)の任務・目標を引き継いでいるため、略称として「Wings」を引き続き使用することとしました。

■研究推進委員会の初仕事 パブリックコメントに対する意見案検討
総会当日代議員から「遺伝子診断」「患者登録」に関しての質問が出されました。
現在さまざまな大学、研究機関で研究目的の遺伝子解析・診断が行なわれています。また昨年成立、本年1月施行された難病法のもと、難病登録が新たな形で始まっています。
一方、JRPS第2次中長期計画では、これらの遺伝子解析研究、難病登録に加えて、新たな仕組み、即ち、患者情報、症例情報、遺伝情報を一元的に管理する全国的な登録システムを作ることを展望しています。
年度毎の研究費に依存せず、長期に維持され、臨床研究・治験実施の際に力を発揮すると予想されます。関係者と連携しつつ、実現に力をつくしたいと考えています。
そこで、研究推進委員会の初仕事として、国の難病対策基本方針案の検討を行なってきました。8月14日まで実施された「難病対策基本方針案」に対するパブリックコメント意見募集に際しては第2次中長期計画の内容、また、社員総会での質疑を踏まえつつ意見案をまとめ、常任理事会に答申、理事長名で意見提出を行ないました(提出意見は本号「JRPSだより」参照)。

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