第11回JRPS網脈絡膜変性フォーラム報告

(日本眼科学会専門医認定事業)

日 時:2016年10月2日(日)13:00 ~ 15:00
会 場:伊勢市観光文化会館(三重県伊勢市岩淵1丁目13-15)
主 催:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
後 援:厚生労働省 三重県 伊勢市
公益社団法人 日本眼科医会 愛知県眼科医会
富山県眼科医会 福井県眼科医会 三重県眼科医会
社会福祉法人 三重県社会福祉協議会 社会福祉法人 伊勢市社会福祉協議会
社会福祉法人 三重県視覚障害者協会 三重県ボランティア連絡協議会
社会福祉法人 中日新聞社会事業団
NHK津放送局 三重テレビ放送 三重エフエム放送 株式会社中日新聞社
伊勢ロータリークラブ 伊勢ライオンズクラブ
オーガナイザー:山本 修一(千葉大学) 近藤 峰生(三重大学)
事務局:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
〒140-0013 東京都品川区南大井2-7-9 アミューズKビル4F

【プログラム】
(1)開会
(2) 講演

13:00~
網膜色素変性の遺伝子異常と遺伝子解析について
林 孝彰(東京慈恵会医科大学)

13:30~
網膜色素変性の治療の歴史 ―神経栄養因子と遺伝子治療を中心に―
町田 繁樹(獨協医科大学)

14:00~
人工網膜の実用化に向けての現状
不二門 尚(大阪大学)

14:30~
再生医療とロービジョンケア
平見 恭彦(先端医療センター)

(3)閉会

講演要旨
網膜色素変性の遺伝子異常と遺伝子解析について
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 眼科  林 孝彰

近年、網膜色素変性の病態解明・治療に関する研究が進んできており、様々なことが判明している。まず治療へのアプローチとして、神経保護、遺伝子治療、再生医療、人工網膜などが考えられ実際に施行されている。この中で遺伝子治療へのアプローチとしては、大きく以下の2つに分かれる。
①アポトーシスや酸化ストレスによる視細胞変性には共通のプロセスがあり、これを予防するための原因遺伝子非依存的治療
②アデノ随伴ウィルス(AAV2)ベクターを用いた遺伝子補充療法で原因遺伝子依存的治療
現在の遺伝子治療としては、後者の遺伝子補充療法が主流となっている。このことから網膜色素変性やその類縁疾患に対する原因遺伝子の特定は、重要かつ有意義な研究であることが理解できる。このように、遺伝子補充療法は、常染色体劣性遺伝もしくはX連鎖劣性遺伝形式をとり、原因遺伝子が特定されていることが前提条件の治療であるため、個々の患者さんの原因遺伝子が同定される必要がある。なかなか普及しにくい要素を含んでいるが、下記の疾患ではすでに論文として報告されている。
①レーバー先天盲(常染色体劣性) RPE65遺伝子補充療法 (NEJM2008, NEJM2008, NEJM2015, NEJM2015)
②コロイデレミア(X連鎖遺伝) CHM遺伝子補充療法(Lancet2014, NEJM2016)
③常染色体劣性網膜色素変性 MERTK遺伝子補充療法(Hum Genet2016)
しかしながら現状として、遺伝子解析により原因を特定することは必ずしも容易でない。その理由として、原因遺伝子が多岐にわたるためである。2016年5月現在、網膜色素変性の各遺伝形式での原因遺伝子数は、常染色体優性遺伝で22遺伝子、常染色体劣性伝で36遺伝子、X連鎖劣性遺伝で2遺伝子となっており、合計60遺伝子が特定されている。従来の1つ1つの遺伝子を調べていく方法(Sanger法)では限界がある。そこで、現在では以下の4つの方法で解析されることが多い。
①例えば疾患別に50遺伝子のエクソン領域を予め解析できるプライマーペアを準備し、次世代シークエンサを用い一度に増幅・塩基配列を解析する方法(targeted resequencing)
②罹患者の両親が近親婚である場合、遺伝子変異をホモ接合で有することを予測し、マイクロアレイでホモ接合の領域を特定し、隣接する原因遺伝子を特定する方法(homozygosity mapping)
③次世代シークエンサを用い、すべての遺伝子のエクソン領域を増幅し、一度に塩基配列を決定し、データベースとの比較解析を行い、候補遺伝子異常にアプローチする方法(whole-exome sequencing)
④大きな欠失や重複など(genomic rearrangement)が予測される際に、特定の遺伝子に対する欠損部・増幅部をPCRとハイブリダイゼーション法で特定する方法(multiplex ligation-dependent probe amplification)
このなかで最近特に頻用されているのは①と③であろう。京都大学眼科・大石先生らの研究では、①の方法で解析した網膜色素変性患者の36.3%(115/317)で原因遺伝子が検出されたと報告している。多くの候補遺伝子を網羅的に解析しても60%以上で原因が見つからないことを意味しており、まだまだ研究道半ばといえる。また、最近では、患者さんから採取・抽出したDNAがあれば③は外注することも可能な時代になっている。このことからもインフォームドコンセント後に患者さんから戴いたDNAサンプルは私たち眼科医にとっては宝物なのである。
慈恵医大ではこれまで、患者さんとその家族を含め1000人以上の方からDNAを抽出してきました。本講演では、実際に患者さんとその両親から得られたDNAサンプルをもとに従来法だけでなく、③のwhole-exome sequencingや④の multiplex ligation-dependent probe amplification法で捉えた遺伝子解析結果と患者さんの臨床像について紹介したい。遺伝子解析研究は、多くの患者さんの協力なくしては円滑に進みません。今後も引き続き患者さんの協力を得ながら研究を続けたいと思います。

林 孝彰( Takaaki Hayashi )
1991年 東京慈恵会医科大学卒業
1998年 東京慈恵会医科大学大学院修了(眼科学)
1998年 米国州立ワシントン大学留学
2001年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 助手
2003年 東京慈恵会医科大学眼科学講座 講師
2016年 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 眼科准教授
現在に至る

 

講演要旨
網膜色素変性の治療の歴史 ―神経栄養因子と遺伝子治療を中心に―
獨協医科大学越谷病院 眼科  町田 繁樹

網膜色素変性(RP)は先天性・進行性の不治の病と考えられてきた。しかし、動物実験レベルでは多くの治療成果が報告され、その一部は臨床症例に応用されている。今回は、その中でも神経栄養因子と遺伝子治療にフォーカスを絞り、今までの成果をreviewしてみる。

1.神経栄養因子
1990年にLaVailの研究グループが、遺伝性網膜変性モデルであるRCS(Royal College of Surgeons)ラットの硝子体内にbFGFを注入し、視細胞変性が抑制されたことを報告した。この論文はNatureに掲載され、いかに反響が大きかったかが伺える。それから四半世紀以上が過ぎて、動物実験から臨床試験へと時代は移り変わっている。
1) 動物実験での成果:bFGF以外の神経栄養因子にも同様の視細胞保護効果があることが判明した。その中で、CNTFが小動物からイヌなどの大動物の多くの遺伝性網膜変性モデルで効果を発揮し、安全で優れた神経栄養因子として注目された。しかし、神経栄養因子の効果は両刃の刃的な予想もできなかった副作用がつきまとうことが明らかとなってきた。安全と考えられていたCNTFでさえもロドプシンの発現を抑制し、視細胞を保護してもその機能を可逆的低下させることが報告された。
2) 動物モデルから臨床応用へ:動物実験で神経栄養因子の投与法はワンショットあるいは網膜色素上皮に遺伝子導入し持続的発現させたが、それぞれに欠点があった。ワンショットでは慢性・進行性のRPには対応できない。また、副作用の可能性を秘めた神経栄養因子を恒常的に発現させた場合は副作用が心配された。これらの問題を解決したのがEncapsulated cell-based technology (ECT)であ る。Sievingら(2006)はCNTFの遺伝子を導入し持続的にCNTFを産生する網膜色素上皮細胞を特殊なカプセルに入れて、RP症例の硝子体内に移植している。このカプセルは半透膜で覆われており、CNTFは硝子体内に放出されるが、免疫細胞がカプセル内に侵入することはない。数年間にわたって、一定濃度のCNTFを硝子体内に徐放することができる。持続的な投与もできるし、副作用が出た場合は抜去もできる。安全性が確認された後に、多施設臨床試験が行われた。
3) 臨床試験:残念ながら、視力および網膜感度は、ECT移植後24ヵ月で対象に比較して変化がなかった。高濃度CNTFを徐放するECTでは、網膜感度がむしろ低下したが、この変化は可逆性であった。しかし、期待できる結果もあった。治療群では外顆粒層が無治療眼に比較して有意に厚く、錐体細胞の減少が抑制された。

2.遺伝子治療
1) 動物モデルから臨床応用へ:RPE65の遺伝子異常で発症するLeber先天黒内症(LCA)が、眼科領域では初めての遺伝子治療の対象疾患となった。LCAは若年発症で予後不良のRPの一つである。この遺伝子変異が最初に選ばれ背景にはイヌのLCAモデルの存在が大きい。RPE65の遺伝子を搭載したアデノ関連ウイルス(AAV)ベクターをイヌのLCAの網膜下に注入した。その結果、RPE65が網膜色素上皮に発現し、網膜機能が長期間にわたり著しく改善した。
2) 臨床試験:2008年にこの成果に基づいて6人のLCA患者に遺伝子治療が行われた。硝子体手術後に視力、眼振、対光反射、微小視野などの変化から、半数例以上で効果が得られている。変性が進行した症例を選択していたことから、早期例を対象とすれば更なる効果が期待されより多くの患者が対象となり遺伝子治療は続けられている。その結果、1)長期の視機能の改善が得られる。2)治療部位に新たな固視点ができる(pseudofoveaの形成)。3)中心窩機能の改善はない。4)治療後もロドプシンの再生が遅延する。5)治療で視細胞変性は抑制できない。等のあらたな事実が判明した。

このような先人たちの研究を振り返りながら、今後のRPの治療の展望を議論してみたい。

町田 繁樹( Shigeki Machida )
1989年3月 岩手医科大学医学部卒業
1994年3月 岩手医科大学医学部大学院卒業 学位取得
1994年4月 岩手医科大学眼科学教室 助手
1997年4月 岩手医科大学眼科学教室 講師
1998年9月 ミシガン大学 Kellogg Eye Center, Research fellow
2005年8月 岩手医科大学眼科学教室 助教授(准教授)
2014年4月 獨協医科大学越谷病院眼科 学内教授
2015年4月 獨協医科大学越谷病院眼科 教授
現在に至る

 

講演要旨
人工網膜の実用化に向けての現状
大阪大学大学院医学系研究科    不二門 尚

人工網膜は、視細胞が失われた網膜で、残った内層の神経を電気で刺激して、視覚を回復させる方法です。CCDカメラを使って得られた画像をコンピューターで処理し、電極の数に相当する画素の信号に変えて、電気刺激し、人工的な光が見えるようにします。
私達の方法は、脈絡膜上経網膜電気刺激方式(Suprachoroidal Transretinal Stimulation STS方式)と名前がついていますが、電極を強膜内に置く独自の方法を採っています。これは電極の固定がとても良く、安全性と安定性の面でもリスクを軽減できるというのが大きなメリットであり、実現性も高い方式だと考えています。電気で刺激することにより、残った網膜の神経が元気になる、網膜賦活効果も期待できます。
また皆さんが希望している再生医療に関しても、ST型人工網膜は網膜に接触しないので、人工網膜を埋めてからでも行えるのがメリットです。現在は、網膜色素変性で視野障害1級の人を対象としますが、次世代機では2級で視野の残っている人にも対象を広げていきたいと思っています。
STS人工網膜は、コンタクトレンズ型電極に1.5ミリアンペア―以下の電流をながして、光を感じる人に適合されます。アメリカ、ドイツは一歩進んでいてオーストラリアが日本に迫ってきています。先行グループは「安定性」や「安全性」が必ずしも十分ではなく、日本発のSTS法もこれから十分キャッチアップできると考えています。電極は49極なので、分解能はあまり高くありませんが、STS法は複数枚の電極板を入れることが可能なので、視野を拡大して歩行を助けるのに役立てる可能性があります。
再生医療との棲み分けですが、人工網膜は電流で離れたところから網膜の神経を刺激できるので、失明して10年経過して、網膜が瘢痕組織に覆われていても光を回復できますが、再生医療は現状では瘢痕組織が生じていない、失明してあまり時間が経っていない患者さんが当面の対象になると思われます。
我々のグループは49極のSTS人工網膜の慢性臨床研究(1年)を終了し、結果をまとめているところです。1例目の患者さんは、電気で刺激しているうちに、人工網膜の電源を入れなくても見え方が良くなりました。3例目の患者さんは、人工網膜を使うと、物がある場所がはっきり分かり、つまみを回して、コントラストを調節すると、区別するのが難しかった、洗濯物を区別して畳むことができるようになりました。米国で商品化された人工網膜Argus IIは世界で150例以上の患者さんが埋め込み手術を受けています。限 局した光(キャンドルの光など)が分かるようになったり、人影が分かるようになったことでHAPPYになる人も多いようですが、患者さんの期待が大きすぎると満足が得られないということです。
また人工視覚を役に立つ視力にするには「リハビリテーション」が重要です。患者さんの意見を取り入れて、コンピューターシステムを進化させ、それに応じてリハビリテーションのプログラムを開発することが、人工網膜を日常生活に役立つようにするためには必須のことになっています。患者さんは共同研究者です。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

※参考:人工臓器41巻3号 2012年

不二門 尚( Takashi Fujikado )
1982年 大阪大学医学部卒業
1992年 大阪大学医学部眼科 助手
1996年 大阪大学医学部眼科 講師
1998 年 大阪大学医学部・器官機能形成学 教授(眼科兼担)
2001 年 大阪大学大学院医学系研究科・感覚機能形成学 教授(眼科兼担)
2001年より人工網膜の開発をNIDEK社と共同で行っている。
現在に至る

 

講演要旨
再生医療とロービジョンケア
先端医療センター眼科   平見 恭彦

再生医療とは、けがや病気で傷ついたり働きが失われたりした組織や臓器を、細胞培養や組織工学といった最新の技術を応用して作製した組織や臓器で補ったり、置き換えたりして修復する治療です。
網膜色素変性や黄斑変性といった網膜の病気では、網膜を構成する細胞の中でも、光刺激を受け取る視細胞や、その視細胞の維持の役割を持つ色素上皮細胞が失われることがその原因となっています。そのため、視細胞や色素上皮細胞を移植することにより視力を回復するということが考えられていましたが、これらの細胞は採取することも増殖させることも難しく、移植しても周囲の網膜の他の部分に上手くつながらないと視力を回復させることはできません。
そこで、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)といった「多能性幹細胞」と呼ばれる細胞が、移植する網膜細胞を作る材料として注目されるようになりました。多能性幹細胞とは、細胞の性質が変わることなく、限りなく増殖することができ(自己複製能)、一方で細胞の性質が変わることにより、体のさまざまな部分の組織や細胞に変化することができる(分化多能性)という2つの特徴的な性質を持っています。このことが、治療に必要な細胞を大量に準備するという再生医療の目的に適しており、その中でも、網膜の細胞が作製できることはES細胞の研究によって10年以上前からわかっていたことと、それに加えて、体の他の臓器と比べて少ない細胞の量で治療することができるということから、網膜は、多能性細胞による再生医療の実用化が早期に実現可能な候補と考えられていました。
理化学研究所と先端医療センター、神戸市立医療センター中央市民病院の共同研究チームが、加齢黄斑変性の患者に患者自身のiPS細胞から作製した網膜の細胞(網膜色素上皮細胞)を移植する臨床研究を開始したのは2013年8月のことで、2014年9月に最初の移植手術を行いました。手術後1年を経過して、細胞そのものや手術に伴う重篤な合併症は認められず、治療を追加されない状態で視力は維持されており、現時点では1例ですが当初の目的である安全性の確認は達成されました。これは今後iPS細胞から作製した網膜の細胞を用いたさまざまな眼の疾患の治療開発を進めるための第一歩となると考えられます。
再生医療は確かに失われた機能を回復するという目標に向かって進みはじめていますが、一方で網膜の病気においては、まだ大きな効果が得られる治療にはなっていません。加齢黄斑変性に対する細胞の移植で期待される効果は視力の維持であり、網膜色素変性に対する視細胞の移植治療が可能になったとしても、まずは光覚の回復を確認することが当初の目標と考えられています。したがって、再生医療単独の治療で得られる視力や視野の回復は、実用化の当初には治療を待ち望んでいる人々の期待とはかけ離れたものでしょう。
そこで、我々はそうして得られたわずかな効果を活用し、実生活での利便性を最大限に上げるためのリハビリテーションが非常に重要であると感じています。それは、補装具の使用、パソコンや日常生活を便利にするグッズの活用であったり、近年ではタブレット端末の利用であったりするものや、歩行訓練、固視訓練といった、いわゆるロービジョンケアであり、さまざまな行動が「見えにくくてもできる」ようになることで社会復帰を促すことができます。そのためには病院と一体でロービジョンケアを提供できる施設があることが理想的と考えられました。
神戸アイセンターの計画は、網膜と視覚の再生医療に関する研究室と眼科病院、ロービジョンケアを提供するフロアを有する施設を神戸市のバックアップの下で建設し、これらを一体的に提供するという計画です。まだ具体的な内容を明らかにはできませんが、眼科医療と再生医療、ロービジョンケアをつなぐ役割を果たすことができる施設を目指しています。

平見 恭彦( Yasuhiko Hirami )
1999年 京都大学医学部卒業
2000年 倉敷中央病院眼科 医員
2007年 理化学研究所 リサーチアソシエイト
2008年 先端医療センター病院眼科 副医長
2013年 先端医療センター病院眼科 医長
現在に至る

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第12回JRPS網脈絡膜変性フォーラム報告

(日本眼科学会専門医認定事業)

日 時:2017年11月19日(日)9:50~12:30(開場9:00)
会 場:千里ライフサイエンスセンター 5階ライフホール
(大阪府豊中市新千里東町1-4-2)

講 演:網膜色素変性の治療の最前線
~基礎研究から臨床応用へ~

10:00~
網膜色素変性に対する視細胞保護治療(動画は「会員ページ」)
池田 康博(九州大学)

10:30~
網膜移植と再生医療(動画は「会員ページ」)
万代 道子 (理化学研究所)

11:00~
チャネルロドプシンを用いた視覚再生
冨田 浩史(岩手大学)

11:30~
遺伝性網膜疾患: 診断から治療へのアプローチ
藤波 芳(東京医療センター)

12:00~
人工網膜による視覚機能の再建 ~開発の現状と未来
森本 壮(大阪大学)

オーガナイザー:山本 修一(千葉大学) 町田 繁樹(獨協医科大学)

主 催:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
後 援:厚生労働省 大阪府 大阪市 公益社団法人 日本眼科医会 公益社団法人
ネクストビジョン 日本ロービジョン学会 一般社団法人 大阪府眼科医会 京都府眼科医会 兵庫県眼科医会 社会福祉法人 大阪府社会福祉協議会 社会福祉法人 大阪市社会
福祉協議会
一般財団法人 大阪府視覚障害者福祉協会 一般社団法人 大阪市視覚障害者福祉協会

事務局:公益社団法人 日本網膜色素変性症協会(JRPS)
〒140-0013 東京都品川区南大井2-7-9 アミューズKビル4F

講演要旨
網膜色素変性に対する視細胞保護治療
九州大学眼科  池田 康博

網膜色素変性(RP)とは、暗いところで見えにくい夜盲という症状で始まり、視野が少しずつ狭くなり、最終的には視力が低下してしまう遺伝性の網膜の病気です。目に関連する遺伝子のキズが原因で、網膜の神経細胞(視細胞)が少しずつ傷害を受けていきます。外界情報の約80%を得るために必要なこの視力を失うことで、我々のQOL(生活の質)は著しく低下し、社会活動は大幅に制限されることになります。現時点で有効な治療法が確立されていない難病で、早期の治療法開発が望まれています。
その近未来の治療法として期待されているもののひとつが、遺伝子治療です。欧米では、レーバー先天盲やコロイデレミアといったRPによく似た遺伝性の網膜の病気に対して治験が実施され、一定の安全性と治療効果がすでに明らかとなっています。遺伝子治療が標準治療の一つとして認められる日が近づいてきていると言えます。レーバー先天盲やコロイデレミアの場合、病気の原因となっている遺伝子のキズを治す(正常な遺伝子を補充する)という、遺伝子治療における理想的なアプローチが選択されていますが、RPの場合は遺伝子のキズが多岐にわたる(70種類以上)ため、現実的にはすべてのRPの患者さんにこのアプローチを適応するのは難しいと考えられています。
そこで我々が注目したのが、視細胞保護遺伝子治療です。RPでは遺伝子のキズにより最終的に視細胞の細胞死が生じますが、神経細胞に対し保護作用を有する神経栄養因子と呼ばれるタンパク質を作り出す遺伝子を目に打ち込むことによって、その神経栄養因子が目の中でたくさん作られ、視細胞が護られて視力が低下するのを防ぐという方法です。今回、神経栄養因子として色素上皮由来因子(PEDF)を選択し、これまでに複数のRPの動物モデルにおいてその治療効果を確認しました。さらに大型動物であるカニクイザルを用いた安全性試験により、この治療法の安全性を確認しました。これらの効能試験ならびに安全性試験の結果に基づき、臨床研究実施計画を立案し、平成24年8月に厚生労働大臣より了承されました。本臨床研究の主な目的は、SIVベクターの眼内投与の安全性を確認することで、平成25年3月26日に第1症例への投与を実施し、これまでに5名の被験者に臨床研究薬の投与を完了しました。現時点で臨床研究を中止しなくてはならないような重篤な合併症はありません。また、この臨床研究と並行して、次のステップとなる医師主導治験の準備を進めています。
本講演では、遺伝子治療臨床研究の結果を中心に、RPに対する視細胞保護遺伝子治療の可能性についてご紹介させていただく予定ですが、さらに、広い意味でのRPに対する視細胞保護治療の可能性についても併せて紹介したいと思います。

池田 康博( Yasuhiro Ikeda )
1995年 九州大学医学部 卒業
1995年 九州大学医学部眼科 入局
2003年 九州大学大学院医学系研究科博士課程 修了
2004年 九州大学病院眼科 助手(現・助教)
2015年 九州大学病院眼科 講師
2016年 九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座 准教授
現在に至る

 

講演要旨
網膜細胞移植と再生医療
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト  万代 道子

現在私たちは、iPS細胞を用いて加齢黄斑変性に対する網膜色素上皮細胞の移植プロジェクト、そして網膜色素変性に対する網膜組織移植プロジェクトに取り組んでいます。
加齢黄斑変性についてはすでに最初の自家iPS由来の網膜色素上皮移植からほぼ3年経過し、特に合併症はみられることなく移植片が安定して生着していることを確認しています。この結果をうけて、網膜色素変性に対するiPS細胞由来網膜組織の移植治療についても臨床研究を視野に研究を進めているところです。
私たちは今年初め、マウスのiPS細胞由来の網膜組織を末期網膜変性モデルに移植すると、移植した視細胞とホストの2次神経細胞がつながり、光シグナルをホストの神経節細胞に伝えること、行動実験においても移植後のマウスで光合図による学習効果がみられるようになることを報告しました。同じような網膜組織はヒトのES細胞やiPS細胞からも用意でき、また移植後末期の変性網膜に生着して成熟することを動物モデルで観察しています。さらに現在は、これらのヒトのESやiPS細胞でも移植後成熟して光に応答することを検証中です。今後、安全性試験などを重ねて、ヒトでの臨床応用を目指して準備を進めていく予定です。
人でも動物で得られたような効果がみられるかは臨床研究をしてみないとわかりませんし、うまくいっても最初はうっすら小さく光がわかる、といった程度の効果しか得られないかもしれません。しかし少しでも光がわかるとなれば、よりその効率をよくしていくこともできるのではないか、とも思っています。
最初の臨床研究は最初の一歩にすぎませんが、現在の進捗と今後の見通しなど紹介したいと思います。

万代 道子( Michiko Mandai )
1988年 京都大学医学部 卒業
1988年 京大病院眼科研修医
1989年 関西電力病院眼科
1990年 京都大学医学部大学院博士課程
1994年 京都大学眼科学教室 助手
2000年 米国NIH 研究所 客員研究員
2002年 京都大学病院探索医療センター 助手
2006年 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 網膜再生医療研究チーム研究員
2006年 神戸市立医療センター中央市民病院 非常勤医師
2011年 先端医療センター病院 眼科副部長
2013年 理化学研究所 多細胞システム形成研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト 副プロジェクトリーダー
現在に至る

 

講演要旨
チャネルロドプシンを用いた視覚再生研究
岩手大学理工学部生命コース   冨田 浩史

緑藻類クラミドモナスより同定されたチャネルロドプシン-2(ChR2)タンパク質は、光受容に伴い細胞内に陽イオンを透過させる、光活性化陽イオン選択的チャネルとして機能する。神経細胞の興奮は細胞内への陽イオンの流入によって引き起こされるため、神経細胞にChR2を発現させることで、光照射によって興奮を誘起する光感受性神経細胞となる。我々は2005年から、この特徴的な機能を持つChR2の眼科分野への応用に取り組んできている。
網膜色素変性症では、視細胞が焼失し失明に至った場合でも、視細胞以外の神経細胞は残存していることが報告されている。残存する神経細胞、その中でも特に、視神経を構成する神経節細胞は、元来、視覚情報を脳に伝達する役割を担っており、この神経節細胞にChR2を発現させることで、神経節細胞が直接、光を受容し、脳に視覚情報を伝達できると考えられる。我々は、ChR2遺伝子を網膜神経節細胞に運ぶウイルスベクターとして、アデノ随伴ウイルスベクター2型(AAV)を選択し、遺伝的に視細胞変性をきたす(遺伝盲)ラットを用いて、視機能の回復を検証してきた。その結果、1回の遺伝子導入で約30万個の細胞にChR2タンパク質が発現し、ラットの生涯(約2年)を通じて回復した視機能が維持されること、ならびに重篤な副作用が見られないことが示されている。しかしながら、ChR2タンパク質が感じ取れる光は青色に限定されるため、ChR2を用いた遺伝子治療で視覚が回復できたとしても、青色しか見ることができない。この問題点に対して取り組み、2009年、同じ緑藻類のボルボックスから同定されたチャネルロドプシンを人為的に改変し、1つのタンパク質で青、緑、赤のほぼすべての色に応答する改変型チャネルロドプシン(mVChR1)の開発に成功している。mVChR1遺伝子導入によって、RCSラットの視機能回復が見られることならびに副作用が生じないことを確認し、臨床開発に必要な一部の前臨床試験を(独)医薬基盤研究所ならびに国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援により実施し終了している。
ChR2に関しては、ChR2の知財権を持つアメリカRetroSense社のサイエンティフィックアドバイザーとして臨床開発に協力し、2016年2月に、アメリカで臨床試験が始まっている。また、我々が独自に開発したmVChR1は、2016年2月よりアステラス製薬により臨床開発が進められている。
今回、これらのチャネルロドプシンによって得られる視覚特性を中心に、現在までの研究経過を報告する。

冨田 浩史( Hiroshi Tomita )
1990年 京都府立大学農学部 卒業
1992年 京都府立大学大学院農学研究科修士課程 修了 農学修士
1993年 東北大学医学部眼科学講座研究生(出向)
1998年 東北大学大学院医学系研究科眼科学講座 助手
2002年 長寿科学振興財団海外派遣研究員
(アメリカ合衆国オクラホマ大学眼科学講座)
2004年 東北大学先進医工学研究機構 助教授
(生命機能科学分野 人工網膜研究チーム チームリーダー)
2008年 東北大学国際高等融合領域研究所医歯薬融合領域 准教授
2012年 岩手大学理工学部生命コース 教授
(兼務)
東北大学 大学病院臨床研究推進センター 客員教授
RetroSence, LLC(U.S)(2008/1-2016/12)
現在に至る

 

講演要旨
遺伝性網膜疾患:診断から治療へのアプローチ
国立病院機構東京医療センター 眼科  藤波 芳

遺伝性網膜疾患に関する診断から治療へのアプローチは近年劇的な変化を遂げている。標準とされる4行程(1.クリニックにおける臨床検査・診断、2.遺伝子検査・診断、3.臨床診断と遺伝子診断の相関確立ならびに最終確定診断、4.臨床治験導入)を経る形で、遺伝性網膜疾患に対する診断から治験導入が行われている。特に、この数年における遺伝医学分野における技術革新、情報共有・統合化の加速に伴い、欧米を中心に臨床治験導入が拡大し、世界的に見ると、千名以上の遺伝性網膜疾患患者が遺伝子置換治療、遺伝子導入治療、薬物治療、再生細胞治療、人工網膜などの先鋭的臨床治験に参加している。
本講演では「治療が皆無であった」時代から、「治療を選択する」時代へ大きな変容を遂げつつある遺伝性網膜疾患分野における現在の取り組みについて、最新の情報を含めて紹介される。

1.臨床診断
遺伝性網膜疾患は希少疾患に分類される。網膜色素変性症という臨床病名の患者群の中にも原因となる(もしくは関連する)遺伝子は数十以上存在するため、単独施設における原因遺伝子ごとの臨床情報は極限られたものとなり、診断に苦慮することも少なくない。この状況を受けて、国内・国外で同一の臨床検査を基にデータ共有し、共同で臨床診断を行う、多施設共同研究が遂行されている。一例としてJapan Eye Genetics Consortium(JEGC)が挙げられる。JEGCは2006年に東京医療センター・臨床研究センター(NISO)を中心に設立され、日本臨床視覚電気生理学会の後援を受ける形で2017年8月現在までに国内23施設から約1600症例以上の情報共有がオンラインデータベースを利用して行われている。さらに、アジアの代表として、アジア域内(12ヵ国約50施設)での情報共有、その他の4大陸との連携(欧州、北米、豪州、南米)が強力に推進されている。

2.包括的遺伝子検査・診断
2010年代に入り、次世代シークエンスの標準化に伴い、250を超える網膜疾患関連遺伝子を同時に検索する手法が導入され、その他の手法では実現が難しかった包括的な遺伝子検査が可能となった。さらに、日本人特有の遺伝背景を数千単位の正常人データから割り出すことで、欧米からの過去の報告を基準とした形では診断が困難であった症例についても、日本人の特性を大規模コホート内で理解した上での遺伝子診断が実現化し、より精度の高い診断が現実のものとなっている。

3.臨床診断と遺伝子診断の相関確立と最終確定診断
数千単位の症例の、臨床・遺伝情報の共有化の実現により、網膜関連遺伝子それぞれについての臨床像が明らかとなり、「網膜色素変性症」と漠然と呼ばれてきた病名の中にも、様々な小分類が存在することが解ってきた。これらの分類診断は、原因遺伝子・病態を基に行われており、小分類間で、発症、重症度、進行性、遺伝様式が異なるため、この臨床診断・遺伝子診断を繋ぎ合わせた病態に基づく最終確定診断が患者カウンセリング、治療導入に必須の工程となっている。特に、日本人における臨床診断と遺伝子診断の関連においては、過去、包括的遺伝子解析を用いた大規模研究による調査が存在しなかったが、2010年代後半に入り日本人特有の疾患分類や病状が次々と明らかとなり、原因に即した形、病態に即した形で、それぞれの疾患の再整理が急務となっている。

4.治療導入
臨床診断、遺伝子診断から最終確定診断が得られた後、原因遺伝子、病状、病期(therapeutic
windows)を加味して、治験導入が考案される形が一般的となりつつある。国内・国外を含めて、様々な施設で、様々な手法で治療導入が行われる中で、治療適応疾患、その原因遺伝子、病期などの情報を共有する体制づくりが精力的に進められており、遺伝性網膜疾患治験情報ウエブサイト、症例情報共有オンラインデータベース、患者レジストリなどを通して、個々人に適した治療を選択する時代が日本に到来する日が間近に迫っている。

藤波 芳( Kaoru Fujinami )
2004年名古屋大学医学部医学科 卒業
2004年 名古第一赤十字病院 前期臨床研修
2006年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 眼科後期臨床研修医 臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室 研究 員
2009年 英国Moorfields Eye Hospital、Electrophysiology、Fellow 英国UCLInstitute of Ophthalmology、Genetics、Research Assistant
2013年 独立行政法 人国立病院機構 東京医療センター 眼科 慶應義塾大学大学院博士課程眼科学専攻 網膜細胞生物学グループ
2016年 英国UCL Institute of Ophthalmology、Genetics、Research Associate英国Moorfields Eye Hospital、Division of Inherited Eye Disease、Honorary Clinical Manager 、慶應義塾大学眼科学講座 非常勤講師
2017年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センター・臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室 室長英国UCL Institute of Ophthalmology、Genetics、Senior Research Associate

 

講演要旨
人工網膜による視覚機能の再建 -開発の現状と未来
大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学  森本 壮

人工網膜は、網膜色素変性などで視細胞を失った網膜に対し、視細胞の代わりに残った網膜の内層の神経細胞に対し、電気刺激を行い、点状の光を感じさせることによって視覚を回復させる方法です。
具体的には、まず電気刺激を行うための電極を何十極も載せた電極板と体内刺激装置を患者さんに埋植します。次にCCDカメラがついた眼鏡をかけ、CCDカメラの画像を携帯型のコンピュータで処理し、その情報を、電波を使って体内刺激装置に伝え、体内刺激装置はその情報に従って多点電極を通して網膜に対して電気刺激を行います。
現在、人工網膜は3つのタイプの研究開発が進んでいます。一つ目は網膜上刺激型人工網膜で電極を網膜の上に置く方法で、主に米国で開発された方式で、すでに米国やEUでは、認可されておりそれらの国で治療を受けることができます。二つ目は、網膜下刺激型人工網膜で、電極を網膜下に置く方法で、主にドイツで開発が進んでいる方式で、第一世代の開発と臨床試験は終了し、現在、第二世代の人工網膜の開発が進行しております。最後に、我々が開発した日本独自の方式である脈絡膜上経網膜電気刺激(STS)型人工網膜で、これは眼球の外側の強膜からトンネルを作製し、脈絡膜上に電極を設置する方法で、他の方式と異なり、網膜に直接電極を置かないので、網膜への組織損傷が少なく、電極の交換が容易で、将来、再生医療を患者さんが受ける場合にも併用が可能な方式です。

本講演では、我々がこれまでに行ってきたSTS型人工網膜装置の臨床試験の結果について述べ、他の方式の人工網膜装置の臨床試験の結果にも触れ、現時点での人工網膜でどこまで見ることができるかについて述べたい。また、現在開発中の第三世代の人工網膜の研究の状況や今後の人工網膜の展望について述べる予定である。

森本 壮( Takeshi Morimoto )
1997年 大阪大学医学部 卒業
1997年 大阪大学医学部眼科学教室入局
2001年 大阪大学大学院医学系研究科未来医療開発専攻 博士課程
2005年 医学博士(大阪大学)
2008年 大阪大学大学院医学系研究科眼科学 医員
2009年 大阪大学大学院医学系研究科寄付講座視覚情報制御学 助教
2010年 大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 講師
2012年 大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学 准教授
現在に至る

 

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JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第15回JRPS網脈絡膜変性フォーラム 開催中止のお知らせ
(兵庫県・神戸チサンホテル:20200921)

第14回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(東京都・KFCホール:20190630)

第13回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(静岡県・浜松アクトシティコングレスセンター:20180923)

第12回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(大阪府・千里ライフサイエンスセンター:20171119)

第11回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(三重県・伊勢市観光文化会館:20161002)

第10回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(高知県高知市・高知プリンスホテル:20151101)

第9回JRPS網脈絡膜変性フォーラム
(東京都東京国際フォーラム:20140405)

第8回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第7回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第6回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第5回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第4回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第3回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第2回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

第1回JRPS網脈絡膜変性フォーラム

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第7回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第6回
岩手大学 冨田浩史先生に聞く ~遺伝子治療による視覚再生-臨床に向けた取り組み~
岩手大学理工学部化学・生命理工学科 視覚神経科学研究室の 冨田 浩史(とみた ひろし)先生は東北大学に在籍中から、緑藻単細胞生物であるクラミドモナスに発現しているチャネルロドプシン2という蛋白質に注目し、この遺伝子を使って視覚を再生する治療法の開発に取り組んでこられました。これを含め、光活性化チャネル遺伝子を使った治療法の臨床応用の見通しをうかがいました。

問:先生は長年チャネルロドプシン2の遺伝子治療を目指して努力されてきました。いよいよ臨床試験が始まっているとうかがいました。
答:チャネルロドプシン2を使った遺伝子治療の実現のため、2006年4月に特許の出願をしましたが、その半年前にアメリカのレトロセンス社が出願しておりそちらが認められました。そこでなるべく早くこの治療法を実現するため、それまでの研究結果を同社に提供し、共同して開発を進めてきました。レトロセンス社は2016年春、ダラスで臨床試験を開始、途中経過が近いうちに発表される予定です。同社はつい最近アメリカの目薬の大手であるアラガン社に買収され、今後はアラガン社が臨床試験を進めると聞いています。
問:チャネルロドプシン2は青い光しか感じないので、先生方はすべての色を感じるたんぱく質の遺伝子を作られました。そちらの臨床応用の見通しは?
答:クラミドモナスとは別の緑藻類であるボルボックスに発現しているタンパク質VChR1が赤い光を感じることに注目、この遺伝子を改変して青、緑、赤など可視光のすべてを感じるタンパク質、改変型VChR1の遺伝子を作りました。こちらは最近特許の取得に成功し、その後東北大学が作ったベンチャー企業クリノに譲渡しました。クリノはアステラス製薬とライセンス契約を結び、アステラス製薬が治験に向けて準備を進めています。私はレトロセンス社の顧問という立場上、アステラス製薬の研究開発には関与していません。
問:遺伝子治療の治験に進むには、どのようなことが求められますか?
答:遺伝子治療にはウイルスベクターが必要ですが、眼科領域ではこれまで例が少なく、決まったメニューが存在しません。そのため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら進めていく必要があります。治験までのプロセスはおおむね次のようになります。
①GMPに沿った施設でウイルス製剤を作製し、その品質のチェックを行ないます。たとえば、純度、夾雑物、細胞に対する感染効率などを調べます。何回か作って、ロットごとに品質をチェックし、いつでも同じ品質で製造できる薬剤であることを示します。
②GLP適合施設で前臨床試験の安全性試験を実施しなければなりません。試験項目は、遺伝毒性、安全性薬理、薬効薬理、薬物動態などです。対象動物も含め、PMDAと協議しながら実施します。ラットの安全性試験は終了し、カニクイザルでの試験が残っています。1回眼内注射で投与し3ヵ月間モニターします。
③前臨床試験の薬効・薬理試験についてはラットの縞視力の測定(いわゆる首ふり試験)と視覚誘発電位の測定を実施しました。試験はGLP施設で行なう必要はありませんが、すべてのデータをPMDAに提出しチェックを受ける必要があります。
問:しばらくは治験に直接関与されないとのことですが、現在、あるいは今後どのような研究をされるお考えですか?
答:ラットの首ふり実験の信頼性を高めるため、録画し、首ふり回数を機械的にカウントする方法を開発中です。また、遺伝子導入した網膜神経節細胞が光を受け、その刺激が脳でどのように認識され、どのように見えるかは未解明です。視覚心理学を専門とする先生との共同研究では、真っ白な部分はやや灰色に、真っ黒な部分も少し灰色になるものの、りんかくが強調された画像となるというようなシミュレーション結果が得られています。あくまでもシミュレーションであり、これを動物実験で今後明らかにしていきたいと考えています。また、長期的には、色覚を回復する研究、また網膜変性を遺伝子治療で保護する研究を進めたいと考えています。
問:最後に、全国のRP患者へ、ひと言メッセージをいただけますでしょうか。
答:2005年にこの研究に着手し、11年の歳月が過ぎました。何度も研究継続の危機がありましたが、JRPS主催の医療講演会にご招待いただき、多くの方々から力をいただきました。ありがとうございました。まだ、ゴールは少し先になりますが、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

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第1回研究推進委員会(Wings)通信

■研究推進委員会が発足
本年6月の社員総会で第2次中長期計画が承認されました。「研究推進」に関する計画については、常任理事会の下に「研究推進委員会」を設置、日常活動を担うことになりました。

委員は次の9名です:有松靖温(理事、東京)、森田三郎(理事、京都)、奥村俊通(理事、岡山)、大坂文乃(兵庫)、加納猛彦(岐阜)、小林一男(群馬)、島袋勝弥(山口)、土井健太郎(東京)、堀口浩幸(神奈川)
なお、本委員会は昨年度までの中長期計画推進委員会(Wings)の任務・目標を引き継いでいるため、略称として「Wings」を引き続き使用することとしました。

■研究推進委員会の初仕事 パブリックコメントに対する意見案検討
総会当日代議員から「遺伝子診断」「患者登録」に関しての質問が出されました。
現在さまざまな大学、研究機関で研究目的の遺伝子解析・診断が行なわれています。また昨年成立、本年1月施行された難病法のもと、難病登録が新たな形で始まっています。
一方、JRPS第2次中長期計画では、これらの遺伝子解析研究、難病登録に加えて、新たな仕組み、即ち、患者情報、症例情報、遺伝情報を一元的に管理する全国的な登録システムを作ることを展望しています。
年度毎の研究費に依存せず、長期に維持され、臨床研究・治験実施の際に力を発揮すると予想されます。関係者と連携しつつ、実現に力をつくしたいと考えています。
そこで、研究推進委員会の初仕事として、国の難病対策基本方針案の検討を行なってきました。8月14日まで実施された「難病対策基本方針案」に対するパブリックコメント意見募集に際しては第2次中長期計画の内容、また、社員総会での質疑を踏まえつつ意見案をまとめ、常任理事会に答申、理事長名で意見提出を行ないました(提出意見は本号「JRPSだより」参照)。

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第2回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第1回 
岡山大学医学部(眼科)松尾俊彦先生、工学部内田哲也先生
「岡山大学方式人工網膜「OUReP」の開発
~ 医師主導治験の見通し ~」

●岡山大学方式人工網膜の治験を計画されているとお伺いしました。この人工網膜の特長、また臨床応用の前提となるご研究についてお伺いします。

問:まず岡山大学方式の人工網膜の特長を説明していただけますか?
答:光を電位差に変換する光電変換色素分子をポリエチレンフィルムに化学結合して使用します。電位差を出力して、近傍の神経細胞を刺激します。10の7乗から8乗個の色素分子が1つの神経細胞に接しています。ポリエチレンフィルムは薄くて柔らかいので、大きなサイズ(直径10ミリメートル大)まで植込み可能です。つまり、広い視野をカバーすることが可能です。

問:どの位の回復視力が期待できますか?
答:網膜色素変性モデルラットでは、行動評価から換算して、0.005以上の視力が得られています。ヒトでも同等に見えれば、アイパッドなどで拡大して字が読めます。日常生活の改善、字を読むことが目標です。理論的には、網膜本来の解像度が期待できます。

問:人工網膜の眼内での耐久性、また安全性はどのくらい分かっていますか?
答:ウサギに6ヵ月植込んで摘出した人工網膜の機能を解析しています。光に対する反応性は保持されています。安全性評価のすべての試験で毒性はありません。6ヵ月埋植試験もウサギで実施しています。

●計画されている治験について、次にお伺いします。
問:人工網膜は眼内のどこに挿入しますか? 挿入した後に交換可能ですか?
答:網膜色素上皮と神経網膜の間に挿入します。網膜剥離で剥がれるのが、この網膜色素上皮と神経網膜の間です。技術的には交換可能ですが、人工網膜を植込むよりも摘出するほうが手術的侵襲は大きいので、無害ならば、植込んだままにしたほうがよいと考えます。2枚目の人工網膜は、先に植込んだ人工網膜の上(神経網膜側)に重ねて入れるのがよいのではと考えます。

問:被験者の募集人数、また選択基準、除外基準は?
答:最初の募集は5人です。ヒトで初めてですので、両眼とも「光覚弁なし」の方で、光干渉断層計(OCT)で網膜層構造が残っている方です。除外基準は、緑内障、角膜疾患がある方、全身状態が悪い方、認知症などの方です。

問:麻酔の種類、手術時間、入院日数、外来通院頻度、効果判定時期は?
答:手術は局所麻酔下1、2時間で終了します。入院は5日間、通院は14、28日目、2、3、6、12、24ヵ月目です。効果判定時期は術後28日です。

問:有り得る有害事象は?
答:網膜剥離、硝子体出血、緑内障、眼内炎です。

問:治験での評価項目は? 二重盲検試験(くじ引き試験)を要求されますか?
答:主要評価項目は安全性、副次評価項目は、探索的効果(視力、視野)です。Feasibility study(探索試験)5人の後、pivotal study(検証試験)20~25人を実施します。前者で効果があれば医療機器製造販売承認申請が早くなります。医療機器ですので、医薬品とは違い、二重盲検試験は不要です。

問:製造・販売企業の見通しは? 将来的に、治療費用はどのくらいかかりますか?
答:岡山大学が大手の製造販売業企業と交渉を進めています。心臓ペースメーカーの費用は100万円くらいで、同程度の金額を想定しています。通常の硝子体手術と同額になり、それプラス、人工網膜の費用となります。保険償還を目指します。

問:治験開始の時期はいつ頃ですか?
答:医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談、今年度内の開始を目指しています。

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第3回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第2回 
山梨大学飯島裕幸先生に聞く
~病気の進み具合が予測できる~

ハンフリー視野検査から網膜色素変性症の進行を予測する方法を考案された山梨大学医学部眼科教室の飯島裕幸教授にいろいろお話をお伺いしましたので、その概要を質疑形式で報告します。

問:ハンフリー視野計測というのはどういうものですか。
答:視覚障害の等級判定ではゴールドマン視野計が使われていますが、ハンフリー視野計は、主に中心部の視野、視野角で30度以内での光の見え方を詳しく測定することができます。ハンフリーはあるけれどもゴールドマンはないという病院もあり、現在、日本眼科医会ではハンフリー視野検査も視覚障害の等級判定に使えるように厚労省に要望しています。

問:どのようにして病気の進行状態を予測するのですか。
答:70歳、80歳になったRP患者さんでも視力や視野がまだまだ残っている方もたくさんおられます。病気は徐々にしか進行しませんから、若い患者さんに希望を持って貰うために病気の進行具合をお知らせして、将来の見え方の予測をすることを考えました。具体的には先ほど申し上げたハンフリー視野計で10度の視野内の68個の検査点での感度を測定し、重みをつけた平均値であるMD値を求めます。MD値はそのひとの眼全体の感度の代表値になります。これを、4、5年の間計測し、時間的なグラフにすると、S字の両端を左右に引き伸ばしたような、いわゆるシグモイド曲線になります。何百人もの患者さんのデータから、病気の初期の頃と病気がうんと進んだ時期を除くとMD値の時間経過はほぼ直線的であることが分かりました。その直の傾きからそのひとの眼の悪化の進行速度や何歳まで視野が残っているかが予測できるわけです。

問:実際に生活しているうえでは視野とか視力とかに関係なく、なんとなく良くなったとか悪くなったとか言っているように思うんですが、見え方の総合的な指標はないのでしょうか。
答:同じ視力0.5の人でも、視野の狭いRPの人と視野が正常な健常者では不便さはまるっきり違います。見え方の不便さは視力だけでは表せません。視力は隣り合った2本の線の間隔(日本の検査ではいわゆるCの字の切れ目の両端)が接近したとき、どこまで別々の線として見分けられるかという能力を視野の中心部で検査するものです。一方、視野は視線の先の部分だけでなくその周囲の広い範囲の見え方を評価するので、視力とは全く異なる機能です。視力と視野の両者を包含するような検査指標はありません。
また、遺伝子の異常と視野進行の速度については関係があるらしいのですが、はっきりしたことは分かっていません。同じ異常遺伝子異常であるはずの家族内の異なる患者さんの間でも、さきほどのハンフリーのMD値の傾きが同じとは限りません。

問:先生の方法で、薬なり治療法なりの有効性の検証はできますか。
答:MD値の傾きが分かっている患者さんで、ある治療を開始してからのMD値の傾きが明らかに平坦になれば、その治療が進行を遅らせたという証明になります。ただし、評価には時間がかかります。

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第4回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第3回
理化学研究所 高橋政代先生に聞く
~網膜再生医療の未来について~

再生医療による加齢黄斑変性症の治療を目的とした臨床試験に携わっておられる高橋政代先生に、この研究を含め、RP治療に向けた現状と今後についてのお話を伺いました。

問: 加齢黄斑変性症2例目の移植手術が見送られた経緯は?
答: 患者本人の細胞からiPS細胞(自家iPS細胞)を作成し、移植に向けて網膜色素上皮細胞に分化させたところ、遺伝子のいくつかに変異が見つかった。これらの変異は、腫瘍形成との関連性は低いと考えられている上、網膜色素上皮細胞の特性として腫瘍化しにくいことから、この細胞の安全性には確信を持っていた。しかし、変異によるリスクに対する議論が過熱し、移植予定であった患者の容体が安定していたこともあり、安全性に関するコンセンサスが広く得られるまで移植を中断することに決めた。このコンセンサスを得るうえで重要となる、iPS細胞の臨床応用における安全性評価の指針が文科省と厚労省の間で今年度中に策定される見通しとなっている。

問: 他家iPS細胞(他人の細胞)を用いた臨床試験を開始すると聞いたが?
答: 自家細胞の研究を中止するわけではないが、将来の治療に向けて本格的に再生医療を臨床へ導入することを考えると、コストが安く、時間も大幅に短縮できる他家細胞の使用は不可避である。自家細胞を使うと、年間2名の患者しか治療できず、一人当たり5000万円程度の費用が掛かってしまう。一方、他家細胞を使うと、一度に100人分の移植用細胞を調整することも可能で、より現実的な費用で多くの患者を治療できる。京都大学iPS細胞研究所では、多くの方とマッチする特殊な白血球の型を持つヒトから作成したiPS細胞バンクが構築されつつあり、患者に適合する細胞を用いた他家移植に向けて準備が整いつつある。他家細胞を用いた臨床試験は、早期に開始できるように進めている。(株)ヘリオスでは、薬事承認を取得するために、細胞をばらばらにした浮遊液を用いた治験を2017年中に開始すると発表している。

問: 再生医療によるRP治療の見通しは?
答: RPが進行した患者の治療を目指して、iPS細胞から作成したシート状の網膜組織を移植する方法を優先的に研究している。このシートを移植した際に、どのようにものが見えているかを本当に知るためには脳の状態を観測しなければならない。この脳の研究も準備しているが、短期的に結果が出るものではない。よって、動物実験で細胞の移植後に光を感じることが確認できた段階で、網膜組織移植術のヒトへの応用を考えている。時期などについては規制当局との話し合いになると思われる。
シートの作成は日々進歩しており、病気の進行度合いに応じて、バラバラにした細胞の移植、シート状細胞の移植など多くのアプローチが考えられている。ヒトに対する臨床試験は、3、4年後の開始を目指している。

【インタビューを終えて】
高橋先生を含め、世界中で多くの研究が進められています。研究者は多くの難問を解決しながら、私たち患者がより良い生活を取り戻せるように努力を重ねています。科学的/医学的難問を解決すると同時に、その成果を社会的にも受け入れてもらわなければなりません。この両方を研究者だけの力で達成することはとても困難です。
研究が進むほどに、患者としていかに臨床研究と向き合うか、どのように研究者を後押しするかが重要になってきます。治療法を待つだけではなく、その過程にいかに関わっていくかを皆で考える時期に来ています。研究が進んでいるとはいえ、今日明日で治療法が確立するわけでもありません。視力の残っている人は、どうかそれを大事にしてください。有効な視力がない人も、体調を整え、網膜が少しでも良い状態であるように心がけてください。皆で頑張りましょう!

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第5回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第4回
九州大学眼科池田康博先生に聞く ~視細胞保護遺伝子治療のこれから~
RP患者を対象とする神経栄養因子PEDFの遺伝子治療臨床研究を実施されている池田先生に今後の見通しなどをお話しいただきました。

問:2013年3月から臨床研究を開始されたそうですが、これまでの経過は?
答:今回の臨床研究は遺伝子導入ベクターを目に投与することの安全性を確認することが第一の目的です。5名に遺伝子導入ベクターを投与して2年間経過しましたが、重篤な副作用は観察されていません。

問:「医師主導治験」という新たな枠組みで研究する準備をされていると伺いました。その背景や見通しは?
答:臨床研究だけでは遺伝子治療を患者さんに届けられません。治験という過程をクリアしてはじめて、薬として使用することが許可されます。そこで2年後の治験開始を目指して準備しています。日本医療研究開発機構(AMED)から資金を提供していただくことになり、実施の可能性が広がりました。これまでの臨床研究では視力の悪い人に半ばボランティア的な意味合いを含めて研究に参加していただきました。その結果、大きな合併症など起こらないことが分かったので、これからは治療効果の判定がしやすいもっと視力のよい人にもエントリーしていただく予定です。

問:通常の薬の治験のように、二重盲検試験をするのですか?
答:安全性を調べる第1相試験と探索的に有効性を調べる第2a相試験では、対照群は置きません。有効性を確認するための第3相試験については、規制当局の医薬品医療機器総合機構(PMDA)がどう判断するか、現時点では分かりません。

問:治験ではどのような指標で有効性を調べますか?
答:RPは進行が遅く、薬の有効性評価が難しいのが実情です。今のところハンフリー視野計による視感度の検査もしくは改良型のマイクロペリメータMP-3による網膜感度の検査を考えています。しかし、どちらも自覚検査なので、客観性に難点があります。患者のその日の状態によって、成績がいいときと悪いときがあります。そこで客観的なマーカー分子を見つける努力をしています。視細胞の死んだ量に比例して増減する分子が血液か眼房水に見つかれば、評価はずっと容易になり、かつ短期間にできます。

問:人によって薬の効きかたが違うとも聞きますが。
答:RPは原因となる遺伝子もさまざまで、遺伝子診断にもとづく病型分類ごとに治療方針を考えるのが理想的です。試験参加者の多様性により、効果の出やすい患者と出にくい患者が混じってしまうと、有効性の証明が困難になります。遺伝子を調べて病型をもう少し細分化できると、各グループに対応したより効果的な治療薬を開発できる可能性が高まります。

問:そのためにもRPの疾患登録(レジストリ)が必要ではないかと。
答:そうですね。レジストリを立ち上げるとなると、どうしても資金が必要ですし、また原因遺伝子の情報が背景にないといいものにならないので、ここがネックになります。

問:RPの難病登録の臨床調査個人票には、本人同意の上で遺伝子診断の結果を記入する欄があります。これを充実させる形で、目的のレジストリができる可能性はないですか?
答:個人票のデータは現在のところ自治体で管理されているので、まずはそれを一括して管理する必要があります。難病の研究班が呼びかける可能性はありますが、現時点では不明です。もちろん遺伝子研究をされている先生方の協力も必要不可欠です。

問:患者としては、行政やさまざまな立場の先生が一丸になって進めてもらいたいです。
答:必要性は誰もが認めているので、何とか実現するようにしたいですね。

【インタビューを終えて】
前回は、光を失った患者に視細胞を移植することによって視力を回復する試みについて、高橋政代先生にお話しいただきました。今回は、視力を失ってしまう前に、病気の進行を遅らせたり、止めたりする治療のお話です。RPの症状は多種多様であるため、私たち患者にとってはどちらの研究も重要となります。米国では、特定の網膜疾患(レーバー先天盲)に対する遺伝子治療を近い未来に国が認可するのではないかと言われています。患者の要望があれば、日本でも承認申請する準備があるとの噂もあります。病型をここまで限定しない池田先生の治療法にも期待が高まります。日進月歩と言わず、秒進分歩くらいで研究を進めていただきたいところですが、既にお忙しい先生が倒れてしまっては元も子もないので、私たちは少しでも目を労わりながら研究の成果を待つことにしましょう。

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第6回研究推進委員会(Wings)通信

■Wings研究者インタビュー 第5回
RP患者を対象に、新規薬物KUSおよび分岐鎖アミノ酸の神経保護治療の治験を計画されておられる京都大学医学部附属病院臨床研究総合センターの池田華子先生にお話をうかがいました。

問:先生は2015年にJRPSの研究助成を受賞されました。さまざまな機会にご研究の内容をうかがっていますが、あらためてこれまでの成果を簡単にまとめていただけますか?
答:私たちは京都大学が新規に開発した化合物(KUS,Kyoto University Substance)がRPのモデル動物で病気の進行を抑えることを明らかにしました。RPの症状を示す2種類の遺伝子改変マウスやウサギに全身投与したところ、視細胞の脱落が抑制され、また網膜伝図検査で視力がよく保たれていることが分かりました。またKUSの研究にヒントを得て分岐鎖アミノ酸製剤(ロイシン、イソロイシン、バリン)をRPモデル動物に投与したところ、同様の効果があることが分かりました。これらの薬剤がRPの患者さんに対して、進行予防の新たな治療薬になる可能性があります。とくに分岐鎖アミノ酸はすでに他の病気の治療薬として長期間使われていますので、安全性に問題はありません。そこで、分岐鎖アミノ酸の神経保護効果を検証する治験の準備をしており、視機能の経過に関する自然経過観察を臨床研究として行なっています。

問:臨床研究のデータは治験にどのように活かされますか?
答:今回の治験の第1段階は、第II相探索的試験と言って、とりあえず何らかの効果が得られるかどうかを調べたいと考えています。なるべく少ない人数で最大限の効果を出したいと思っています。症状が進行していない人が試験に入ると、薬の効果が見えにくくなりますので、臨床研究で視野進行が見られた患者さんを選んで試験をします。薬剤の効果は、治験開始後の進行を薬剤投与前の臨床研究データと比較して判定する予定です。各個人内あるいはグループとして比較します。

問:どのような視機能を検査しますか?
答:ハンフリー視野計で視野検査を行ない、視野の広さと感じる光の強さを表すTotal
point scoreを算出します。自覚的検査ですので、その日の体調その他が結果に影響します。それでも検査の回数を稼ぐことによって(例えば2ヵ月毎に6回検査することで)、十分な精度が確保できることが分かってきました。

問:今回の探索的試験ではっきりした効果が出ると期待してよいですか?
答:やはり個人差があると思いますので、どのくらいクリアな結果が出るのか不明です。ただ、RPに対する治療薬が何もないという現状ですので、一定の効果が出れば次の段階、第III相試験に進めると考えています。

問:第III相試験は、第II相試験と同様の試験を大規模にやるのですか? それとも無治療群を置いたランダム化比較試験をするのですか?
答:事前のデータで被験者を絞るようなことにはならないかもしれません。絞らないと効果が見えにくくなりますが、これは医薬品医療機器総合機構(PMDA)との相談になると思います。また、探索的試験で明らかに薬効があるのに無治療群を置く試験を実施するのは倫理的にどうかという意見もありますが、これもPMDAとの相談になります。

問:KUSの治験開始の見通しはどうですか?
答:この秋から、硝子体内に直接注射する形で、重篤な急性眼疾患である網膜中心動脈閉塞症の急性期の患者さんでの治験を開始します。RPの患者さんには長期に使っていただきたいので、点眼で投与できるように研究しています。また、内服薬としての開発も同時に進めています。点眼になるか、内服になるか、今後の研究の推進次第ですが、いずれにしても1年後をめどに臨床応用をはじめたいと思っています。KUSは新規の化合物ですので、まずは正常な方を対象に第I相試験を行ない安全性の検討をします。ついで、RPの患者さんを対象に第II相試験を実施します。

問:先生のご苦心と治療薬開発に向けた流れがよく分かりました。最後に全国の患者にメッセージをいただけますか?
答:KUSのほうは、ようやく、他疾患ではありますが、人に投与できるところまでこぎつけました。ここにきて、点眼や内服薬の開発も加速していますので、必ずや皆さまにお届けできるよう、頑張っていきます。分岐鎖アミノ酸製剤を用いた治験ですが、資金のめどが立ち次第開始したいと考えております。現在実施中の、分岐鎖アミノ酸の臨床研究に関心を持って下さる方がおられましたら、京都大学眼科にお問合せください。
(メール:rpkyoto@kuhp.kyoto-u.ac.jp、電話:075-751-3727[眼科外来]。お電話はすぐには対応できないことが多いですので、可能でしたら、メールでお願いいたします)。また、なるべく、最新の情報をHP(http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~ganka/html/shikihen2.html)やFacebook(https://www.facebook.com/京都大学網膜神経保護治療プロジェクト-312249548958205/)で公開していきますので、よろしくお願いいたします。

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