■研究者面談報告 第5回

■Wings研究者インタビュー 第5回
京都大学池田華子先生に聞く~新しい神経保護治療の治験に向けて~

患者を対象に、新規薬物KUSおよび分岐鎖アミノ酸の神経保護治療の治験を計画されておられる京都大学医学部附属病院臨床研究総合センターの池田華子先生にお話をうかがいました。

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Q:先生は2015年にJRPSの研究助成を受賞されました。さまざまな機会にご研究の内容をうかがっていますが、あらためてこれまでの成果を簡単にまとめていただけますか?

A:私たちは京都大学が新規に開発した化合物(KUS,Kyoto University Substance)がRPのモデル動物で病気の進行を抑えることを明らかにしました。RPの症状を示す2種類の遺伝子改変マウスやウサギに全身投与したところ、視細胞の脱落が抑制され、また網膜伝図検査で視力がよく保たれていることが分かりました。またKUSの研究にヒントを得て分岐鎖アミノ酸製剤(ロイシン、イソロイシン、バリン)をRPモデル動物に投与したところ、同様の効果があることが分かりました。これらの薬剤がRPの患者さんに対して、進行予防の新たな治療薬になる可能性があります。とくに分岐鎖アミノ酸はすでに他の病気の治療薬として長期間使われていますので、安全性に問題はありません。そこで、分岐鎖アミノ酸の神経保護効果を検証する治験の準備をしており、視機能の経過に関する自然経過観察を臨床研究として行なっています。

 

Q:臨床研究のデータは治験にどのように活かされますか?

A:今回の治験の第1段階は、第II相探索的試験と言って、とりあえず何らかの効果が得られるかどうかを調べたいと考えています。なるべく少ない人数で最大限の効果を出したいと思っています。症状が進行していない人が試験に入ると、薬の効果が見えにくくなりますので、臨床研究で視野進行が見られた患者さんを選んで試験をします。薬剤の効果は、治験開始後の進行を薬剤投与前の臨床研究データと比較して判定する予定です。各個人内あるいはグループとして比較します。

 

Q:どのような視機能を検査しますか?

A:ハンフリー視野計で視野検査を行ない、視野の広さと感じる光の強さを表すTotal point scoreを算出します。自覚的検査ですので、その日の体調その他が結果に影響します。それでも検査の回数を稼ぐことによって(例えば2ヵ月毎に6回検査することで)、十分な精度が確保できることが分かってきました。

 

Q:今回の探索的試験ではっきりした効果が出ると期待してよいですか?

A:やはり個人差があると思いますので、どのくらいクリアな結果が出るのか不明です。ただ、RPに対する治療薬が何もないという現状ですので、一定の効果が出れば次の段階、第III相試験に進めると考えています。

 

Q:第III相試験は、第II相試験と同様の試験を大規模にやるのですか? それとも無治療群を置いたランダム化比較試験をするのですか?

A:事前のデータで被験者を絞るようなことにはならないかもしれません。絞らないと効果が見えにくくなりますが、これは医薬品医療機器総合機構(PMDA)との相談になると思います。また、探索的試験で明らかに薬効があるのに無治療群を置く試験を実施するのは倫理的にどうかという意見もありますが、これもPMDAとの相談になります。

 

Q:KUSの治験開始の見通しはどうですか?

A:この秋から、硝子体内に直接注射する形で、重篤な急性眼疾患である網膜中心動脈閉塞症の急性期の患者さんでの治験を開始します。RPの患者さんには長期に使っていただきたいので、点眼で投与できるように研究しています。また、内服薬としての開発も同時に進めています。点眼になるか、内服になるか、今後の研究の推進次第ですが、いずれにしても1年後をめどに臨床応用をはじめたいと思っています。KUSは新規の化合物ですので、まずは正常な方を対象に第I相試験を行ない安全性の検討をします。ついで、RPの患者さんを対象に第II相試験を実施します。

 

Q:先生のご苦心と治療薬開発に向けた流れがよく分かりました。最後に全国の患者にメッセージをいただけますか?

A:KUSのほうは、ようやく、他疾患ではありますが、人に投与できるところまでこぎつけました。ここにきて、点眼や内服薬の開発も加速していますので、必ずや皆さまにお届けできるよう、頑張っていきます。分岐鎖アミノ酸製剤を用いた治験ですが、資金のめどが立ち次第開始したいと考えております。現在実施中の、分岐鎖アミノ酸の臨床研究に関心を持って下さる方がおられましたら、京都大学眼科にお問合せください。

(メール:rpkyoto@kuhp.kyoto-u.ac.jp、電話:075-751-3727[眼科外来]。お電話はすぐには対応できないことが多いですので、可能でしたら、メールでお願いいたします)。また、なるべく、最新の情報をHP(http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~ganka/html/shikihen2.html)やFacebook(https://www.facebook.com/京都大学網膜神経保護治療プロジェクト-312249548958205/)で公開していきますので、よろしくお願いいたします。


 

※Wings ひとくちコラム

第2回 ランダム化比較試験とは?

臨床試験の手法のひとつで無作為化試験、くじ引き試験とも言います。ランダム化とは被験者を治療群と無治療群にでたらめに割り付けることです。加えて、しばしば二重盲検法が併用され、試験をする側もされる側も、どちらの群に割り付けられているのかを知らされません。薬効をできるだけ客観的に評価するためです。ただし、とくに希少疾患や重篤な疾患では、無治療群を置かないで過去のデータと比較することもあります。


次回★Wings研究者インタビュー 第6回      
岩手大学工学部  富田浩史先生に聞く
~遺伝子治療による視覚再生-臨床に向けた取り組み~

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第2回Wings ひとくちコラム

ランダム化比較試験とは?

臨床試験の手法のひとつで無作為化試験、くじ引き試験とも言います。ランダム化とは被験者を治療群と無治療群にでたらめに割り付けることです。加えて、しばしば二重盲検法が併用され、試験をする側もされる側も、どちらの群に割り付けられているのかを知らされません。薬効をできるだけ客観的に評価するためです。ただし、とくに希少疾患や重篤な疾患では、無治療群を置かないで過去のデータと比較することもあります。

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2016年度RI世界大会報告おまけ1(第4弾)

大会後に台湾と香港のRP患者さんとボランティアさん、ニュージーランド、アイスランドや南アフリカ、フランスの学術委員の先生たちなどとともに、金井理事長と私が、日本代表として懇親会、交流会に招かれて、7月10日、11日の2日間、台中に行ってきました。
台中の山中に台湾一大きいといわれている湖があり、その日月潭という風光明媚なことで有名なところがあります。その船着場付近で、台風余波の雨風の中、若い兄さんが二人でドローンを飛ばし(ブンブンと、すごい音でした)、わたしたちは、2016RIWC(「2016年国際網膜協会世界大会」という意味)という形に並び、ドローンで上空から撮影して編集したものです。お兄さんたちの操縦はほんとうまいものでした。ドローンのプロですね。
このタイミングで傘を開け!! とか、たため!! とか、上を見て笑え!! とか、手を振れ!! とか、やたら注文されました。大丈夫かいな? と思ってましたが、見せてもらったら、見事な人文字になっていました!?!
私と金井理事長は、台湾の林会長の隣で、Rの左側の下のほうに写っているはずですが、わからないでしょうね。音楽の音が大きいのでボリュームを少し下げてご覧ください。めったとできない体験でした(^_^)v       文責:森田三郎

人文字の動画は、これです。

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2016年度RI世界大会総会(7月7日)の報告

2016年度RI世界大会報告第2弾

RIWC 2016 in Taipeiの総会は、7月7日(木)、午前9時から午後5時半まで、台北国際会議センター(TICC)にて開催された。

ファッサーRI会長の挨拶のあと、点呼の確認をするメンバーの選出と商人が行われ、出席者の点呼が行われ、正会員のフランス代表およびパキスタン代表が欠席、次回開催に応募捨ているアイルランド代表が台風等の影響で遅刻することが判明。ただし、パキスタン代表は、スカイプに寄る参加が認められ、事件と声の大きさなどの調整が行われた。

引き続き、議長、司会者の選出と承認が行われた後、報告事項等、アイルランド代表にとって影響が少ない議題からはじめることを決定し、総会は、40分遅れで始まった。

本報告では、議題案に沿って、結論だけを簡潔に紹介したい。

 

(1)歓迎の辞および議題案の承認

ファッサーRI会長、台灣視網膜色素病變協會林昭銘會長、香港視網膜病變協會曾建平會長の挨拶に引き続き、(2)~(11)の項目に関して議論検討が行われ、最終案が可決された。

 

(2)2014年パリ世界大会議事録の承認

全会一致で可決、承認された。

 

(3)会長および常任理事会による活動報告(2014―16年)

会計報告(2014-15年)

会費減免処置による損益処理について

活動報告については、ファッサー会長から、会計報告に関しては、担当理事からの説明がなされ、質疑応答の後、全会一致で可決承認された。

 

(4)選挙

4.1 RIの団体会員の承認について( 参考資料04-1)

4.1 RI会員に関して(付録04-1参照のこと)

4.1.1 準会員(Associate members)

4.1.2 関与団体(Interested groups)

4.1.3 正会員候補(Candidate members)

4.1.4 正会員(Full members)

損益決算処理報告に関連して、インド、イラン、ポルトガルが関与団体に格下げさた。ギリシャについては、長年のRIへの貢献を考慮し、条件付でスイスとの共同で正会員に残った。正会員候補であったデンマークについては、デンマーク自身が正会員になることを拒んだため、RIメーリングリストからはずすことが決まった。アルゼンチンが正会員候補となることが承認された。正会員であるオランダは、名称が変更になったが、実態は同じなので、正会員のままであることが認められた。したがって、現在の団体正会員は、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、(ギリシャ)、香港、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、 イタリア、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェイ、パキスタン、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、台湾、英国、米国の25カ国(決定に応じた支払い義務を履行することを条件とするギリシャを含めて)となった。以上、論議を尽くした後、最終案が全会一致で可決承認された。

 

4.2 RI本部理事に関して(付録04-2参照)

4.2.1 RI本部運営委員会理事について(Management Committee)

常任理事会委員は、出席正会員各国につき、1票とし、封筒に入れて回収する方式で行われた。結果は、有効票21(白票1)で、以下のとおりとなった。

南アフリカのClaudette Medefindt氏、スウェーデンのCaisa Ramshage氏、香港のK.P. Tsang氏、ニュージーランドのFraser Alexander氏、パキスタンのAbdullah Yusuf氏の5名が選出された。

 

4.2.2 RI会長に関して

クリスチナ・ファッサー氏が、続投の意思と方針が述べられ、他に立候補者はいなかったことから、全会一致で、ファッサー氏を、会長として選出した。

 

 4.3 選挙に関して特に認識しておいてほしいこと

常任理事会では、業務が多くなっているため、様々な専門委員会に、各国からボランティアで協力をしてほしいという要請をしているということ。

 

 4.4 特別表彰

常任理事会は、2000年から常任理事を務めてきたブラジルのMaria-Antoinetta Leopoldi氏を同国のRP協会を発足させると同時に、他のラテンアメリカ諸国の組織の立ち上げを支援した功績に対して、ファッサー会長から表彰された。

さらに、フランス網膜協会の立ち上げの功績に対するJean-Luis Duffer教授、およびヨーロッパの研究者の大会に、網膜変性に関する研究課題を取り上げさせることに貢献したJose Sahel教授も、表彰された。

 

(5)RI本部理事(Retina International Office)

5.1 RI本部最高運営責任者としての会長報告 (付録05-1参照)

5.2 RI本部事務局 将来計画および職務記述書 (付録05-2参照)(5.1参照)

5.3 RI本部事務関連費予算案  (付録05-3参照)(5.1参照)

事務局強化のため、事務局長の待遇を、パートタイマーから、1年更新のフルタイム専任体制に改められた。予算は、国際網膜協会より、年間£45,000(4万5千ポンド)を支払う。また(寄付を集め、網膜研究の支援をおおなう、情報普及活動を行うなど)戦略計画を、これまでの3年から5年という中期的なものに変更することも提案された。

この動議に対し、事務局長に最大£45,000を支払い、5年のスパンで戦略計画を立てることが、全会一致で可決承認された。

 

(6) 管理運営統治組織(Governance)

総会前に団体正会員に、常任委理事会委員の候補者をだすよう、要請されたもの。省略。

 

(7). RI活動計画および予算(Retina International work plans and budget)

7.1 2016-18年度戦略的目標および活動計画 付録7-1参照 (appendix 7-1)

この間の戦略的活動計画は、

①RI活動の基礎といえるランニングコスト

②寄付金集めなどの戦略と業務を執行するためのRI事務局に必要なコスト

に大別さるが、これまでの資金不足に鑑み、RI常任理事会は2つの計画を提示し、総会において検討が行われた。

見直しは、以下の項目にわたる。会員資格、網膜関連研究、情報の伝達、共有と広報、会議(大会)開催、RI綱領と運営指針、若手育成、会計と本部理事会運営、RI事務局。

これらの項目に関して効率と節約を原則とした徹底した練り直し案が議論され、その結果、各項目分野に予算制限の上限の設けられた、より厳しい案の方が提案され、全会一致で可決承認された。

 

7.2 2017-18年度RI本部事務局予算案 付録7-2参照(appendix 7-2)

全体では、£142,400で、2014-15年度に比べて£25,100の節約である。主な節約項目としては、研究報告を髪媒体から電子媒体に変更すること、メンバー間の通信、広報の電子化の促進、電子会議の利用などが、目についた。

 

(8). RI世界大会について(Retina International conferences)

8.1 2018年度RI世界大会 in オークランド( New Zealand)(付録8-1参照)

詳細は、Retina New Zealand作成のプログラムを参照。

8.2 2020年度RI世界大会(付録8-2参照)

2020年度のRI世界大会には、アイスランドとアイルランドの2カ国から立候補表明があり、投票の結果、アイスランドのレイキャビックで開催されることに決定。

 

 

(9). RI本部による広報活動および情報提供

9.1 世界網膜の日の世界同時開催

9.2 公式WEBサイトによる情報提供(Website)

今回の予算節約案の鍵となっているのが、RI公式WEBサイトの改革である。本年7月の総会決定に基づいて、早速HPの改変を始めた。2016年7月中旬には、スマートなWEBサイトになったように見えた。しかし、見栄えに反して、知りたい情報の所在がわかりにくく、使い勝手が悪かった。

おそらく世界中からクレームが来たと思われるが、7月後半現在、改変前のHPに戻っている。しかし、現在のサイトは、旧サイトに比べ、パスワード管理が厳しくなり、会員への通知にも混乱が見られる。WEBサイトの変更は、誰がアクセスするのかを含む内容を、ITの専門家によく理解してもらうことから始めることが肝要であり、完全に機能するようになるには、多少時間が必要と思う。

 

(10) RI直轄地域単位活動(Retina International regional sections)

10.1 ヨーロッパ網膜協会の活動(付録10-1参照)

実質的には、ヨーロッパの地域連携組織があり、活発に会議も開催しているので、RI活動予算がついている。4.4特別表彰の項目にもあったように、ラテンアメリカ地域でも地域協会設立の話が進んでおり、アジアに関しても、JRPS、台湾、香港、中国など、とアジア協会の設立の話し合いを始めた。今後、各地域協会はRIの支援は受けるとしても、財政的には個別にファンドを見つける工夫が必要ではないかと考えた。

 

(11). その他(Miscellaneous)

ローザンヌ大学のRivolta博士と、カリフォルニア大学(ロサンゼルス校)のDr. Farberから、治験およびファンドに関する協力依頼があり、それぞれ、協力できる方法とアドバイスを行った旨の報告があった。

また、今後の厳しい予算緊縮体制の中で、どうすれば寄付を集められるか、といった情報の共有、連携の緊密化が欠かせないので、各国の協力が要請された。

 

以上  (文責:森田三郎)

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■研究者面談報告目次

シリーズ ◆研究者インタビュー◆

2015年6月に開催されたJRPS社員総会(旧代議員会)で「第2次中長期計画」が承認され、治療法研究推進のために、患者目線にたって日常的に活動を担当する「研究推進委員会(略称:Wings)」が設置されました。
現在、第一線の研究者から研究の現状と展望についてお話を伺っています。順次、内容を会報で紹介していますが、当WEBサイトにも併せて掲載します。

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■研究者面談報告 第1回
岡山大学医学部(眼科)松尾俊彦先生、工学部内田哲也先生に聞く
「岡山大学方式人工網膜OUReP」の開発~医師主導治験の見通し~

■研究者面談報告 第2回
山梨大学医学部眼科教室 飯島裕幸先生に聞く
~ハンフリー視野検査から病気の進み具合が予測できる~

■研究者面談報告 第3回
理化学研究所 高橋政代先生に聞く ~網膜再生医療の未来について~

■研究者面談報告 第4回
九州大学眼科 池田康博先生に聞く ~視細胞保護遺伝子治療のこれから~

■研究者面談報告 第5回
京都大学眼科 池田華子先生に聞く ~ 新しい神経保護治療の治験に向けて ~

■研究者面談報告 第6回
岩手大学工学部応用化学・生命工学科視覚神経科学研究室富田浩史先生に聞く
~遺伝子治療による視覚再生-臨床に向けた取り組み~

■研究者面談報告 第7回
弘前大学中澤満先生に聞く ~カルシウム阻害薬を用いたRPの進行抑制~

■研究者面談報告 第8回
大阪大学 不二門 尚先生に聞く ~阪大方式人工網膜と経角膜電気刺激治療~

 

 

 

 

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■研究者面談報告 第4回

■Wings研究者インタビュー 第4回
九州大学眼科 池田康博先生に聞く ~視細胞保護遺伝子治療のこれから~

RP患者を対象とする神経栄養因子PEDFの遺伝子治療臨床研究を実施されている池田先生に今後の見通しなどをお話しいただきました。

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問:2013年3月から臨床研究を開始されたそうですが、これまでの経過は?
:今回の臨床研究は遺伝子導入ベクターを目に投与することの安全性を確認することが第一の目的です。5名に遺伝子導入ベクターを投与して2年間経過しましたが、重篤な副作用は観察されていません。

:「医師主導治験」という新たな枠組みで研究する準備をされていると伺いました。その背景や見通しは?
:臨床研究だけでは遺伝子治療を患者さんに届けられません。治験という過程をクリアしてはじめて、薬として使用することが許可されます。そこで2年後の治験開始を目指して準備しています。日本医療研究開発機構(AMED)から資金を提供していただくことになり、実施の可能性が広がりました。これまでの臨床研究では視力の悪い人に半ばボランティア的な意味合いを含めて研究に参加していただきました。その結果、大きな合併症など起こらないことが分かったので、これからは治療効果の判定がしやすいもっと視力のよい人にもエントリーしていただく予定です。

:通常の薬の治験のように、二重盲検試験をするのですか?
:安全性を調べる第1相試験と探索的に有効性を調べる第2a相試験では、対照群は置きません。有効性を確認するための第3相試験については、規制当局の医薬品医療機器総合機構(PMDA)がどう判断するか、現時点では分かりません。

:治験ではどのような指標で有効性を調べますか?
:RPは進行が遅く、薬の有効性評価が難しいのが実情です。今のところハンフリー視野計による視感度の検査もしくは改良型のマイクロペリメータMP-3による網膜感度の検査を考えています。しかし、どちらも自覚検査なので、客観性に難点があります。患者のその日の状態によって、成績がいいときと悪いときがあります。そこで客観的なマーカー分子を見つける努力をしています。視細胞の死んだ量に比例して増減する分子が血液か眼房水に見つかれば、評価はずっと容易になり、かつ短期間にできます。

:人によって薬の効きかたが違うとも聞きますが。
:RPは原因となる遺伝子もさまざまで、遺伝子診断にもとづく病型分類ごとに治療方針を考えるのが理想的です。試験参加者の多様性により、効果の出やすい患者と出にくい患者が混じってしまうと、有効性の証明が困難になります。遺伝子を調べて病型をもう少し細分化できると、各グループに対応したより効果的な治療薬を開発できる可能性が高まります。

:そのためにもRPの疾患登録(レジストリ)が必要ではないかと。
:そうですね。レジストリを立ち上げるとなると、どうしても資金が必要ですし、また原因遺伝子の情報が背景にないといいものにならないので、ここがネックになります。

:RPの難病登録の臨床調査個人票には、本人同意の上で遺伝子診断の結果を記入する欄があります。これを充実させる形で、目的のレジストリができる可能性はないですか?
:個人票のデータは現在のところ自治体で管理されているので、まずはそれを一括して管理する必要があります。難病の研究班が呼びかける可能性はありますが、現時点では不明です。もちろん遺伝子研究をされている先生方の協力も必要不可欠です。

:患者としては、行政やさまざまな立場の先生が一丸になって進めてもらいたいです。
:必要性は誰もが認めているので、何とか実現するようにしたいですね。

 

【インタビューを終えて】
前回は、光を失った患者に視細胞を移植することによって視力を回復する試みについて、高橋政代先生にお話しいただきました。今回は、視力を失ってしまう前に、病気の進行を遅らせたり、止めたりする治療のお話です。RPの症状は多種多様であるため、私たち患者にとってはどちらの研究も重要となります。米国では、特定の網膜疾患(レーバー先天盲)に対する遺伝子治療を近い未来に国が認可するのではないかと言われています。患者の要望があれば、日本でも承認申請する準備があるとの噂もあります。病型をここまで限定しない池田先生の治療法にも期待が高まります。日進月歩と言わず、秒進分歩くらいで研究を進めていただきたいところですが、既にお忙しい先生が倒れてしまっては元も子もないので、私たちは少しでも目を労わりながら研究の成果を待つことにしましょう。

 

※Wings ひとくちコラム
第1回 「臨床研究」と「治験」の違いとは?
一般に人を対象とする医学的研究のことを広く「臨床研究」といいます。その中で医薬品の投与や医療機器の導入を伴う研究を「臨床試験」といい、その一部に「治験」があります。治験は医薬品や医療機器の製造販売の承認を国から得るために行なう臨床試験のことです。有効性と安全性が証明されれば「承認」となり、一般患者の手元に届きます。
一方で、「承認」を目指さない医師主導の試験を臨床研究ということもあります。たとえばRP患者を対象とした遺伝子治療や再生医療などで、治験に至る前に行なう研究を臨床研究といいます。またすでに承認された医薬品の比較試験なども臨床研究といいます。データ改ざんの不正が発覚した高血圧治療薬の臨床研究の事例は記憶に新しいところです。

次回★Wings研究者インタビュー 第5回
京都大学 池田華子先生に聞く ~新しい神経保護治療の治験に向けて~

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第1回Wings ひとくちコラム

「臨床研究」と「治験」の違いとは?

一般に人を対象とする医学的研究のことを広く「臨床研究」といいます。その中で医薬品の投与や医療機器の導入を伴う研究を「臨床試験」といい、その一部に「治験」があります。治験は医薬品や医療機器の製造販売の承認を国から得るために行なう臨床試験のことです。有効性と安全性が証明されれば「承認」となり、一般患者の手元に届きます。
一方で、「承認」を目指さない医師主導の試験を臨床研究ということもあります。たとえばRP患者を対象とした遺伝子治療や再生医療などで、治験に至る前に行なう研究を臨床研究といいます。またすでに承認された医薬品の比較試験なども臨床研究といいます。データ改ざんの不正が発覚した高血圧治療薬の臨床研究の事例は記憶に新しいところです。

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2016年度RI世界大会(7月7日~9日)報告第1弾

RIWC 2016 in Taipei は、7月8日(金)が台風1号の台湾直撃の時期に重なり、さらに7月7日(木)の夜、台湾の松山空港から市内中心部へ向かう地下鉄の2駅目で25名もの負傷者が出た爆発事故(テロの可能性も高い?)もあったため、8日(金)、9日(土)に講演を予定されていた世界中の研究者のみなさんの台北への到着が大幅に乱れました。結果的に、出席できなかった方や遅刻者が多くなり、当日、直前に講演の順番を入れ替えるなど、大変でした。
総会は7月7日(木)に、ほぼ予定通り開催されましたが、投票権のある団体正会員のフランスが欠席、アイルランドは遅刻など、影響が出ました。金井JRPS理事長と森田(国際担当理事)は、6日(水)に台湾入りをしていましたので、9時スタートの総会から間に合いました。常任理事のパキスタン代表は、出席できなかったので、スカイプでの総会参加でした。音声のボリュームの調整に苦労していましたが、最終的には、国際会議でも問題なく機能していたのは、驚きでした。
今回の報告第1弾では、修正前の大会プログラム(英語版)を、ご紹介します。金井理事長と森田は、二人で、総会および学術講演に出席しました。天候の関係で外出禁止令も出ましたので、午前中の時間をカットせざるを得ず、発表される学術委員の先生方は、発表時間も半分にしてくださいといわれて、苦労されていました。
学術講演会では、修正後のプログラムで、有松学術委員、吉田事務局長と分担しながらいくつかの講演をききました。総会で決定されたことの日本語での要約、および大会で得られた貴重な世界の最新医療情報や世界の組織から得られた活動情報などの日本語による要約は、しばらくお待ちください。出来たものから少しずつご紹介していく予定です。
総会で決まったことのうち、ひとつだけ申し上げますと、2018年のオークランド(ニュージーランド)大会(2018年2月7日(水)~11日(日))の次に、2020年はアイスランドのレイキャビックでの開催が、アイルランドとの決選投票の結果、決定しました。白夜の中での大会になるそうです。

(文責:森田三郎)

RIWC2016 in Taipei 全体プログラム

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■研究者面談報告 第3回 

■Wings研究者インタビュー 第3回

理化学研究所 高橋政代先生に聞く ~網膜再生医療の未来について~

  再生医療による加齢黄斑変性症の治療を目的とした臨床試験に携わっておられる高橋政代先生に、この研究を含め、RP治療に向けた現状と今後についてのお話を伺いました。

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:    加齢黄斑変性症2例目の移植手術が見送られた経緯は?

:    患者本人の細胞からiPS細胞(自家iPS細胞)を作成し、移植に向けて網膜色素上皮細胞に分化させたところ、遺伝子のいくつかに変異が見つかった。これらの変異は、腫瘍形成との関連性は低いと考えられている上、網膜色素上皮細胞の特性として腫瘍化しにくいことから、この細胞の安全性には確信を持っていた。しかし、変異によるリスクに対する議論が過熱し、移植予定であった患者の容体が安定していたこともあり、安全性に関するコンセンサスが広く得られるまで移植を中断することに決めた。このコンセンサスを得るうえで重要となる、iPS細胞の臨床応用における安全性評価の指針が文科省と厚労省の間で今年度中に策定される見通しとなっている。

 

:    他家iPS細胞(他人の細胞)を用いた臨床試験を開始すると聞いたが?

:    自家細胞の研究を中止するわけではないが、将来の治療に向けて本格的に再生医療を臨床へ導入することを考えると、コストが安く、時間も大幅に短縮できる他家細胞の使用は不可避である。自家細胞を使うと、年間2名の患者しか治療できず、一人当たり5000万円程度の費用が掛かってしまう。一方、他家細胞を使うと、一度に100人分の移植用細胞を調整することも可能で、より現実的な費用で多くの患者を治療できる。京都大学iPS細胞研究所では、多くの方とマッチする特殊な白血球の型を持つヒトから作成したiPS細胞バンクが構築されつつあり、患者に適合する細胞を用いた他家移植に向けて準備が整いつつある。他家細胞を用いた臨床試験は、早期に開始できるように進めている。(株)ヘリオスでは、薬事承認を取得するために、細胞をばらばらにした浮遊液を用いた治験を2017年中に開始すると発表している。

 

:    再生医療によるRP治療の見通しは?

:    RPが進行した患者の治療を目指して、iPS細胞から作成したシート状の網膜組織を移植する方法を優先的に研究している。このシートを移植した際に、どのようにものが見えているかを本当に知るためには脳の状態を観測しなければならない。この脳の研究も準備しているが、短期的に結果が出るものではない。よって、動物実験で細胞の移植後に光を感じることが確認できた段階で、網膜組織移植術のヒトへの応用を考えている。時期などについては規制当局との話し合いになると思われる。

シートの作成は日々進歩しており、病気の進行度合いに応じて、バラバラにした細胞の移植、シート状細胞の移植など多くのアプローチが考えられている。ヒトに対する臨床試験は、3、4年後の開始を目指している。

 

【インタビューを終えて】

高橋先生を含め、世界中で多くの研究が進められています。研究者は多くの難問を解決しながら、私たち患者がより良い生活を取り戻せるように努力を重ねています。科学的/医学的難問を解決すると同時に、その成果を社会的にも受け入れてもらわなければなりません。この両方を研究者だけの力で達成することはとても困難です。

研究が進むほどに、患者としていかに臨床研究と向き合うか、どのように研究者を後押しするかが重要になってきます。治療法を待つだけではなく、その過程にいかに関わっていくかを皆で考える時期に来ています。研究が進んでいるとはいえ、今日明日で治療法が確立するわけでもありません。視力の残っている人は、どうかそれを大事にしてください。有効な視力がない人も、体調を整え、網膜が少しでも良い状態であるように心がけてください。皆で頑張りましょう!

 

次回★Wings研究者インタビュー第4回

九州大学眼科 池田康博先生に聞く ~視細胞保護遺伝子治療のこれから~

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■研究者面談報告 第2回 

山梨大学医学部眼科教室 飯島裕幸先生に聴く
ハンフリー視野検査から病気の進み具合が予測できる

■Wings研究者インタビュー 第2回
 ハンフリー視野検査から網膜色素変性症の進行を予測する方法を考案された山梨大学医学部眼科教室の飯島裕幸教授にいろいろお話をお伺いしましたので、その概要を質疑形式で報告します。

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問: ハンフリー視野計測というのはどういうものですか。

答: 視覚障害の等級判定ではゴールドマン視野計が使われていますが、ハンフリー視野計は、主に中心部の視野、視野角で30度以内での光の見え方を詳しく測定することができます。ハンフリーはあるけれどもゴールドマンはないという病院もあり、現在、日本眼科医会ではハンフリー視野検査も視覚障害の等級判定に使えるように厚労省に要望しています。


問: 
どのようにして病気の進行状態を予測するのですか。

答: 70歳、80歳になったRP患者さんでも視力や視野がまだまだ残っている方もたくさんおられます。病気は徐々にしか進行しませんから、若い患者さんに希望を持って貰うために病気の進行具合をお知らせして、将来の見え方の予測をすることを考えました。具体的には先ほど申し上げたハンフリー視野計で10度の視野内の68個の検査点での感度を測定し、重みをつけた平均値であるMD値を求めます。MD値はそのひとの眼全体の感度の代表値になります。これを、4~年の間計測し、時間的なグラフにすると、S字の両端を左右に引き伸ばしたような、いわゆるシグモイド曲線になります。何百人もの患者さんのデータから、病気の初期の頃と、病気がうんと進んだ時期を除くと、MD値の時間経過は、ほぼ直線的であることが分かりました。その直線の傾きから、そのひとの眼の悪化の進行速度や何歳まで視野が残っているか、が予測できるわけです。

問: 実際に生活しているうえでは、視野とか視力とかに関係なく、なんとなく良くなったとか悪くなったとか言っているように思うんですが、見え方の総合的な指標はないのでしょうか。

答:同じ視力0.5の人でも、視野の狭いRPの人と視野が正常な健常者では不便さはまるっきり違います。見え方の不便さは視力だけでは表せません。視力は隣り合った本の線の間隔(日本の検査ではいわゆる C の字の切れ目の両端)が接近したとき、どこまで別々の線として見分けられるかという能力を視野の中心部で検査するものです。一方、視野は視線の先の部分だけでなくその周囲の広い範囲の見え方を評価するので、視力とは全く異なる機能です。視力と視野の両者を包含するような検査指標はありません。
また、遺伝子の異常と視野進行の速度については関係があるらしいのですが、はっきりしたことは分かっていません。同じ遺伝子異常であるはずの家族内の異なる患者さんの間でも、さきほどのハンフリーのMD値の傾きが同じとは限りません。

問: 先生の方法で、薬なり治療法なりの有効性の検証はできますか。

答: MD値の傾きが分かっている患者さんで、ある治療を開始してからのMD値の傾きが明らかに平坦になれば、その治療が進行を遅らせたという証明になります。ただし、評価には時間がかかります。

■Wings研究者インタビュー 第3回
理化学研究所 高橋政代先生に聞く
~網膜再生医療の未来について~

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