[4月の課題]
~今日もまた探し回って日が暮れて~
5年前の10月に、私が入会していた川柳塔すみよしの柳誌『万代池』に次の随筆
を寄稿した。「もやい傘」ではずっと以前にご紹介したものであるが、再度使うこと
にする。
■私の財布知らない?
「私の財布知らない?」、「車のキー知らない?」、「私のケイタイ知らない?」
。我が家の奥様やお嬢様は物を使った後、おおらかに、無雑作に、無頓着に、何でも
かんでもそこら辺にポンと放っておき、それらが必要になると、「あれない」、「こ
れない」と、毎度毎度大騒ぎあそばす。ついには、視覚障害者の私にまで心当たりは
ないかと尋ねてくる。私が仕舞い込んだと疑ってかかるのだ。かくして、今日もまた
騒々しく捜し回っている。
そんな彼女らと日常生活を共にしていると、きっちりした性質の私もまた、物を捜
し回る羽目に陥らざるを得ない。歯磨きのチューブがいつもの場所にない。爪切りが
いつもの場所にない。テレビのリモコンがいつもの場所にない。酒の燗をしようと徳
利に手を伸ばすといつもの場所にないのだ。視覚障害者はきちんと整理整頓している
。どこに何があるかをちゃんと知っている。必要な物はいつでもすぐに取り出せる。
そうしておかないと日常生活に困るからだ。私は目が見えていた時から整理整頓を心
がけていたが、我が家の晴眼者どもはみんな片付けができない。見えているからどこ
に何があるかわかるし、必要な物はすぐに取り出せると思い込んでいる節がある。散
らかし放題の部屋をとがめると、「私はお父さんみたいに暇やないわ!」と反撃を喰
らい、無職の身には切り返す言葉もない。
だが、自分の物を勝手に捜し回っている段にはさほど深刻なことはないが、問題は
、長年一緒に暮らしているのに、我が家の晴眼者どもが視覚障害者に対して、安全面
でも無神経で無頓着なことだ。半開きのドアに頭をぶつける。廊下に置いてある物に
つまずく。出しっ放しの椅子で向こう臑や腹を打つ。テーブルの上に放置された包丁
で指を切る。お菓子の横の錠剤を誤って食べる。彼女らには悪気はないのだが、我が
家の中にも危険がいっぱいだ。用心せねばなるまい。
障害者に対して世の中は、もっともっと無神経で、無頓着で、危険がいっぱいであ
る。ご用心、ご用心。
それでは、例によって上記の中から出題します。
■2023年4月(No.141)
題:「腹」(空腹の腹) (進 選)
題:「財布」 (美幸 選)
題:「暇」(休暇の暇) (憲峰 選)
題:「きっちり」(詠込み不可) (航太郎 選)
(各題2句出し)
◎今月の締切:4月24日(月) 正午必着
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