RP−net川柳会
「もやい傘」
[2023年10月の課題]




[更新日 : 2023年9月26日]



[10月の課題] 
  〜紙と鉛筆さえあれば〜 

 世はまさに 「川柳ブーム」 である。 新聞・雑誌、 テレビ・ラジオの文芸川柳を
始め、 今や企業のキャッチコピーとして広く登場している。 ブームに火をつけたの
は、 生命保険会社の 「サラリーマン川柳」 とお茶製造販売会社の 「お〜いお茶新
俳句大賞」 ではなかろうか。 川柳が一般化して猫も杓子も五七五に血道をあげてい
る。
 本来五七五のリズムは日本人の情感にぴったり合うのではないだろうか。 島崎藤
村の七五調や五七調定型詩に感動し、 演歌はニューミュージックやポップスに押さ
れながらも根強いファンがある。 私も五七のリズムが大好きだ。
 ところで、 私は以前に 「網膜色素変性症」 という目の難病の診断を受け、 将来
の失明を宣告されていた。 やはり徐々に文字が読みづらくなってきて、 読書の趣味
を奪われ、 アウトドアの楽しみもままならなくなった。 まだ少しでも見えているう
ちに、 それらに代わる趣味を開発しなければとあせっていた。 目が見えなくなって
も、 自分の力を発揮できる手軽で安上がりの楽しみはないものかと。
 それまでの数年間随筆風の日記を書いていたので、 文章を書くのは嫌いではなか
ったが、 だんだん長い文章は根気が続かずちょっと荷が重くなっていた。 折しも
「川柳ブーム」 がやって来ていた。 たまたま毎日新聞の 「万能川柳」 欄が目にと
まった。 こんな短い一七音字でおもしろいものが作れるのかと改めてびっくりさせ
られた。 しかも口語体のやさしい表現で、 だれにでも簡単に作れそうだ。 これな
ら何句でも作れるだろう。 しかも、 鉛筆 (サインペン) と紙さえあれば、 いつ
でもどこでも作れる。 費用はハガキ代だけですむ。 なによりも、 私自身五七五の
リズムが好きで、 川柳のもつ風刺、 こっけい、 軽み、 ユーモア、 ペーソスは私
の得意とするところだ。 一般紙に掲載されれば全国区で、 虚栄心も満足させられる

 私はさっそく、 川柳とおぼしきものを作って 「万能川柳」 に投句を始めた。 と
ころが何一〇枚と投稿してもひとつも掲載されない。 ちゃんとハガキが毎日新聞社
に届いているのかと本気で郵便局を疑ったりもした。 やっと初めて掲載された句 「
長電話並んだ列が悪かった」 を発見した時は、 我ながら感動に酔いしれたものだ。
こんな句でいいのかと選者の目の位置がわかってからは、 月二、 三句選に入るよ
うになった。 そうなるとおもしろくなり、 創作もどんどん飛躍する。 「幸せにな
りましょうねと去った妻」 が載った時には、 友人から 「お前、 離婚したんか?」
と驚いて電話がかかってきた。 家内からも 「ヘンなこと書かんといて」 と苦情が
出る。 近所の人から変な目で見られると言う。 世間の人は創作と現実をごっちゃに
しているのだ。 それはそれでまた話のネタになっておもしろいものだ。
 川柳を趣味にした私は、 毎日新聞をホームグランドにしながら他の雑誌やラジオ
に投句し、 懸賞にも応募して選に入るようになった。 しかし、 他流試合をしてい
るうちに作風も変化してくる。 当初のダジャレみたいな狂句から人間を見つめた本
格川柳へと。 俳句の 「自然諷詠」 に対して川柳は 「人間諷詠」 をその本旨とす
る。 他者の生活の営み、 言動とその裏に潜む心の動きをじっくりと見つめ、 それ
を自分自身の内奥に響かせて五七五にまとめ上げる。 こんな訓練を重ねていると、
今まであまり関心を払っていなかった他人や家族に目を向けることが多くなる。 自
分でも人を見る目が優しくなったように思う。
 また、 川柳を通じて、 家内や子供との会話もはずむようになった。 しかし、 彼
女たちには川柳にはそんなに関心があるわけではない。 私が川柳という趣味を手に
入れて、 再びいきいき生活していることがうれしいのだ。 そして、 賞金の分け前
にあずかるのを期待している節もある。 いずれにしても、 たった一七音字の川柳に
よって家庭の雰囲気が明るくなったことは事実だ。 彼女たちはきっと 「盲目の明る
い声になぐられる」 思いであろう。
 近ごろでは、 川柳の作句は鉛筆と紙からパソコンに代わった。 鉛筆と紙があって
も書いたり読んだりできなくなったからだ。 しかし、 幸いなる哉! 退職後五〇の
手習いで習い覚えた音声機能搭載のパソコンで投句を楽しむことができる。 「パソ
コンにエラーエラーと叱咤され」 ながら。

※ 『網膜から落ちた鱗 〜幸せに俺たちだって生きている〜』より 2回目の登場

 それでは、例によって上記の中から出題します。

■2023年10月(No.147) 
題:「ぴったり」 (進 選) 
題:「安い」 (美幸 選) 
題:「預ける」 (憲峰 選) 
題:「お茶」 (航太郎 選) 
 (各題2句出し)
◎今月の締切:10月24日(火) 正午必着




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